Vol.20 法学徒の本気 〜2019年秋、本郷〜
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「アメ政」という物語
卒業式の日、安田講堂前の広場に集う卒業生たち
- 卒業に向けてあと一歩。いよいよ最終学期になりましたね。
最後はどんな科目を受けられたのですか?
-
履修したのは、必修の刑事訴訟法、選択科目のアメリカ政治外交史の2科目でした。
私たちは「アメ政」って呼んでたんですけどね。
最後の学期はもう、刑事訴訟法の単位さえ取れれば卒業は確定で、アメ政は卒業要件ではなかったんですけど、これも夏学期のドイツ法と同じように、成績優秀者認定に必要だったんです。
- 必要な科目が多くて、成績優秀者の認定条件はすごく厳しそうですね。
-
そうですね。要件がいろいろあるので、よく調べてから早めに狙っていかないといけないんです。
よっぽど優秀な人は別ですけどね。
いずれにしても、法学部に入った当初から、アメ政は卒業までに絶対に履修したいと思ってました。
アメリカの文化や社会に昔からすごく興味があったので。
このとき3回目の4年生でしたけど、実は、1回目の4年生と2回目の4年生のときも、行けるときはアメ政の講義を聴講してたんです。
- 英語がお得意で、アメリカがお好きで、でもイギリスにもいらっしゃっていて……。
- はい、イギリスも大好きですよ!
アメリカは、たとえば、私が関心をもっている公民権運動にしても、ビート・ジェネレーションやヒッピーイズムにしても、社会の中での人の動きと時代の政治との関わりがすごくありますよね。
そういった社会的な事象の背景にある、アメリカ政治や国際政治を知りたいと思ったんです。
- 「アメ政」は、佐々木さんが前からアメリカについてもたれていたご興味を、さらに満たしてくれる講義だったのでしょうね。
-
とても面白かったです。
建国から今までのアメリカの歴史をたどりながら、内政と外交が何をきっかけにどう変わってきたのか、変わらなかったのかを見ていく講義でした。
アメリカ社会について断片的に知っていた知識が、(担当教員の)久保文明先生のお話でどんどんつながって、補完されて、新しいこともたくさん学べました。
歴史ってストーリーだって言いますよね?
“history” という言葉は “his story” から来てるって聞いたことがあります。
まあ、“his” は “his/her” とか “their” とか “our” とかにすべきと思いますが。
※“history” と “story” は語源が共通していると言われています。
久保先生の講義は、アメリカという国の壮大なストーリーを語っていただいているように思えました。
国自体の物語の中に、その時代時代の人々それぞれの物語が生まれ続けてきたんですよね。
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私の体の一部は○○○でできている
-
今期は刑訴とアメ政だけに集中すればいいので、うまいこと両方を交互に、均等に勉強していける、楽しみながら、と思ってました。
ただ、均等に交互に、というのがなかなかうまくいかなくて、アメ政の方に勉強時間の8割くらいを費やしてしまいました。
というのは、アメ政は講義の予復習に加えて、出された課題をしたり、先生への質問事項を考えたりしていて、その上でレポートもいくつか書いたので、いつもやることが多い状態だったんです。
- 講義と課題と質問とレポート……。膨大な勉強量でしたでしょうね。
-
実は、課題を発表したり、質問したり、レポートを出したりすると、回数に応じて期末試験の点数に加点していただけることになってたんです。
どれも強制でなくて任意ですけど、点数をいただけるならやりますやりますって(笑)。
毎回発表か質問をして、レポートも3本出しました。
期末試験を受けるだけでも問題なかったんですけど、期末試験でうまくいくかどうかはわからないので、できることはできるだけやっておこうと思って毎回頑張りました。
保険の意味も含めて。
なんだ、アメリカ政治に興味あるって言いながら、結局点数狙いか!って思われるかもしれませんけど(笑)。
- いえいえ、点数は大事ですよ!
課題はどんなものだったのですか?
-
次回の講義内容に関連する英文の資料をあらかじめ読んできてね、というものでした。
講義のときに、我と思わん人は手を挙げて、その内容を説明したり、自分の見解を述べたりするんです。
※斎藤眞/久保文明編『アメリカ政治外交史教材 英文資料選[第2版]』東京大学出版会、2008年
先生はおそらく、細かく読む必要はなくて、書いてあることをだいたい把握できればいい、というご趣旨だったと思うんですが、私はささっと読んで把握するということができないので、毎回全文を日本語に訳してみて、関連事項を調べて、指名されたときにどういう説明をするか、どういう見解を述べるか考えをまとめて、それを講義に持っていけるように紙にプリントアウトして……みたいにしてました。
- すごい……。毎回、徹底的な準備をされて講義に臨まれたのですね!
-
資料集には、ときどき、もともと興味がある事件が出てきました。
キング牧師やマルコムXのスピーチとか、ブラウン判決、ロー対ウェイド判決などです。
英米法を勉強してたときも、聞き知ってる判決名が出てくると嬉々としてましたけど、アメ政でもそうでした(笑)。
※ロー対ウェイド事件判決は、1973年、妊娠中絶を女性の権利と認めて、人工妊娠中絶を規制する州法を違憲とした連邦最高裁判所判決です。
Roe v. Wade, District Attorney of Dallas County, 410 U.S. 113(1973).
※インタビューVol.4 参照
- そういう、前からご存知の事件が出てくると、勉強もさらに楽しそうですね!
質問、というのは授業中にできるんですか?
-
そうです。質問がある人は教壇の前の方に出ていって、順番に先生に聞いていくんです。
適切な質問をするって、けっこう難しいですよね。
理解してないと、なにを聞いていいのか、なにが聞きたいのか思い浮かばないじゃないですか。
自分でちょっと調べればわかることは聞くべきでないと思いますし、ざっくりした抽象的すぎる質問だと論点がぼやけて、答える先生も困ってしまうでしょうし。
その回の講義で疑問に思ったことを最後に質問する、という方が多かった様子ですが、私はお話の内容を把握することで手一杯で、講義中は何かを疑問に思うというところまで至らないんですよね。
だから、家で予習をして、考えて、そのときに出てきた疑問点を覚えておいて、次回の講義で聞くようにしてました。
- ということは、疑問点が出てくるくらい、しっかりした予習を毎回しないといけなかったわけですね。
- そうですね。ある程度の予習をしないと疑問点は出ないですし、クラスの時間を割いて発言する以上、一定の意義のある質問でないと他の学生にも先生にも申し訳ないですからね。
- レポートはどんなテーマで書かれたのですか?
- 奴隷解放に尽力した元逃亡奴隷のハリエット・タブマンという女性についてと、1924年の「排日移民法」についてと、ウォーターゲート事件が起きた時代以降のアメリカ大統領制の変容についてです。
- テーマはご自分で決められたのですよね?
どうしてその3本にされたのでしょうか?
-
タブマンについては、さっき公民権運動のことをちょっとお話ししましたけど、人種差別撤廃運動にもとから関心があるので、アメリカ南部の奴隷制度についても、もっと調べてみたくて。
レポートを書いてたときは知らなかったんですけど、ちょうど伝記映画が制作されてたんですよね。
※キャサリン・クリントン著、廣瀬典生訳『自由への道 ―逃亡奴隷ハリエット・タブマンの生涯―』晃洋書房、2019年
※映画「ハリエット」。日本では2020年公開。
「排日移民法」は、移民法というアメリカの法律をめぐって、当時の日本がアメリカとあれこれ交渉するんですけど、両国の温度差というか気質の差みたいなものが交渉にも影響していくところが面白いなと思いました。
※簑原俊洋著『排日移民法と日米関係』岩波書店、2002年
大統領制のレポートは自分的には一番難しかったんですけど、もともとウォーターゲート事件に興味があったんです。
映画も、原作の本も好きでした。
でも、ただウォーターゲート事件だけを取り上げてもレポートとしてはもの足りないかと思って、大統領制がどう変容していったかということに絡めて書くことにしました。
※ボブ・ウッドワード/カール・バーンスタイン著、常盤新平訳『大統領の陰謀』早川書房、2018年
- どれも面白そうですね!
- この学期中はアメ政の準備に一番時間がかかりました。
週2回の講義だったんですが、講義が終わるとすぐ次の講義用に英文資料を読んで、調べて、関連文献を読んで、考えての繰り返しで。
レポートのために法学部の図書館に通いつめて、十数冊くらい借り出して、それを次から次に読んでいって、構成を作って、下原稿を書いて、仕上げていって。
その合間に、次回の講義でする質問を考えて……。
通いつめた東京大学附属図書館は、国内では国会図書館に次ぐ蔵書数を誇る
- そして、その間もお仕事に行かれて……。
-
そうですね! 本を背負って(笑)。
で、帰ってきて、夜もまたアメ政を。
この時期、人生の空き時間はほとんどアメ政の何かをしてたような(笑)。
私の体の一部はアメ政でできている、みたいな(笑)。
- (笑)。
-
ビデオ上映の回もあって、歴代大統領のスピーチや政治家たちの演説を聴きました。
昔の映像が興味深かったです。
声優としても、デリバリーの点でアメリカ大統領のスピーチはとても勉強になりますね。
※デリバリーとは、イントネーション、間、スピード、アイコンタクトなどの、スピーチにおける表現の技術です。
特別講義もあったんです。
ゲスト講師として、カンザス大学からBeth Bailey教授がいらしてくださいました。
※Bailey教授はカンザス大学のFoundation Distinguished Professor でいらっしゃいます。
- すごい! それは、英語での授業だったのですか?
-
そうですね、全部英語で。
アメリカの歴史におけるフェミニズムを中心としたお話でした。
面白かったです!
Bailey先生には英語で質問したので、さらにハードルが上がりました。
日本語での質問だって難しいのに。
105分の間ずっと英語を聴いて、その内容を理解して、さらに疑問点を英語で尋ねるって、すごく集中力がいりました。
- 英語力は法学部でも重要なんですね。
そして、すごく主体的に授業を受けていらっしゃる!
-
でも、教室でみんなの前で発表したり、先生に質問したりするのは、けっこうプレッシャーなんですよ。
毎回、勇気を出して手を挙げたり前に出て行ったりしてました。
まあ、加点という目的もありましたし(笑)。
自分の発言が済むまでは、講義中にそわそわしてしまうんですよね。
そわそわするあまりに先生のお話をしっかり聴けないのも本末転倒なんですけど、そのうち、「そうだ! できる限り早めに発言すれば、その後の時間はもうそわそわしない!」と気がついたんです(笑)。
それで、講義中できるだけ最初に指名されるように速攻でバッと手を挙げて、質問のときもできるだけ一番か二番に質問できるようにすぐザッと立ち上がって全速力でぴゅーって前に行くようになりました(笑)。
前に行く、というか、いつも最初から最前列の真ん中あたりに座ってたんです。
先生の目の前ですし、立って2、3歩で前に行けるので。
ちょっとした涙ぐましさじゃないですか?(笑)
- 基本的に、常に前にお座りなんですよね(笑)。
- でも、大学生モードのときは、みんなの前で発言するのはいつも緊張するんです。
仕事ではどんなに大勢の前でしゃべっても歌っても緊張しないんですけど。
なんでなんでしょう。面白いですよね(笑)。
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おとなの履修計画
- もうひとつの科目、必修の刑事訴訟法ですが、必修の中でこの科目を一番最後の学期に回したのはどうしてだったのでしょうか?
- 必修科目は、大体、勉強しつつタイミングを見て、よし、たぶん単位を取れるだろうと思えた年に取ってました。
商法は苦手意識があったので一番最後の年(夏学期)になってしまいましたけど。
刑訴を最後の最後(冬学期)にしたのは、苦手だからではなくて、すごく好きだったからです。
- そうなんですか!(刑訴好きって……)
- たとえば、民訴Iなんかは、勉強してもなかなか取っつきづらくて、ずっとよくわからなかったので、最後の年に回すのは怖いなと思いました。
万一にでも単位を取れなかったら学籍を失ってしまうので。
逆に、刑事法は好きだったので、刑訴を最後の年に回しても、単位を取れないなんてことはまずないだろうと思ったんです。
好きな科目を最後の学期に回せば、気持ち的にも余裕が出るし、集中して存分に勉強できそうだから楽しいかなと思いまして。
愛用の六法とともに教科書・演習書で学びを深めた刑訴、英文資料を自作のプリントに落とし込み、じっくり読み解いていったアメ政
- お話を伺っていると、ただ順番に試験を受けていくのでなくて、どの科目をどの年に受けるかをすごく綿密に計画されて、着々と実行されてきたのが本当によくわかります。
-
そうですね。どの科目をいつ取るかは、かなり考えて計画しました。
この学期はこれとこれとこれ、みたいにターゲットを決めて、狙って、ひとつひとつ撃ち落としていく、みたいな。
毎学期、試験が終わって成績が出たら、計画を見直して、その後の履修予定を変更したりもしてました。
- お勉強だけでも大変でしたでしょうに、さらに戦略も入念に立てられていたのが、さすがだなと……。
たくさんの科目がある中で、取捨選択といいますか、どれをいつ取って、という計画を立てるのは、きっとカリキュラムの全体像が見えていないとできないことですよね。
- たしかに、全体から考えて各学期に履修科目を割り振ってました。
でも、いつもいつも計画通りにいったわけじゃないですよ。
最後の学期で想定外だったのは、アメ政のボリュームがとにかく大きすぎて、刑訴に存分な勉強時間を取るのが難しかったことでした。
その分、できるときは集中してやりましたけどね。
- 刑訴はどういう勉強をされたのですか?
- 刑訴は普通の勉強方法でした。普通というか、自分的にスタンダードな。
講義を聴いて、出席できないときは(その回の講義の)書き起こしを読んで、六法をひきながら教科書と参考書を読んでいって、ひととおりざっくり把握できたら問題演習をしてみて、問題を解きながらまた教科書や参考書の該当部分を読み直して……、みたいな「地道に地道に」という感じです。
- 結局は、それが王道の勉強法なのでしょうね。
それで、試験はいかがでしたか?
-
はい、勉強した分、手応えはありました!
刑訴は、ここは重要だなと思っていたところが試験に出たんです。
基本的だけど難しい論点で、基礎の重要さとか奥深さを痛感しながら、うーん、いい問題だなあと唸りながら解いてました。
アメ政は、大問に私の関心が深い事件が出題されたんです。それも複数。
ノリノリで答案を書きまくりました。
講義についていくために、ほとんど毎日勉強してましたけど、試験はその集大成という感じでもありました。
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卒業アルバムを、撮る
- 最後の学期ということで、周りの学友さんも就職活動などでお忙しくなっていそうですよね。
-
周りの4年生は忙しそうでしたね。
卒業が最終的に確定するのは学期末試験の後ですけど、就職でも進学でも、当然、卒業を前提に進路を決めておかないといけないですからね。
ん? 私は就職活動しなかったですよ(真顔)。
- ええ、ええ。それはそうです(笑)。
- 夏頃から、周りの雰囲気で、卒業が近づいてきたのを感じるようになりました。
そうそう、秋には卒業アルバムの写真撮影なんかもありました。
- 卒業アルバム! 佐々木さんも載っていらっしゃるんですね!
-
載ってます!
個人写真で!
法学部のページに!
でも撮ったときはまだ卒業は決まってなかったんですけどね。
個人写真は希望者が撮ってもらうことになってるので、卒業生全員がアルバムに載るわけではないんです。
もしかしたら、個人写真を撮ってもらえることを知らないままの学生もいたかもしれません。
東京大学アルバムは緑地に金文字、布張り箱入りフルカラーの豪華版(重さ3kg超!)
- 卒業アルバムはやっぱり載っておきたいですよね!
-
卒業アルバムはやっぱり載っておきたいですよ!
学内の建物の中で撮ったんですけど、ちゃんとプロのカメラマンさんがいらしてくださるんです。
- それは安心! きれいに撮っていただけますね!
-
そうですね。2、3枚撮ってくださって、後で一番いいのを選んで使ってくださるみたいでした。
でも……。
私のとき、1枚目は普通の顔をしてたら、カメラマンさんが、「はいー次はニーッッッコリ笑顔でっ!」っておっしゃったんです。
盛り上げ上手というか、プロフェッショナルなカメラマンさんですよね。
でもね、でも私は、ニーッッッコリ笑顔でじゃなくて、真顔で載りたかったんですよ。
真顔で撮られるつもりで行ってたんです。
といっても、プロのカメラマンさんが良かれと思っておっしゃってるのに「いやです」とも言えず……。
かといってニーッッッコリ笑顔もできず……。
ちょっと逡巡しました。
- おかしい(笑)。
- で、どうしようかと迷ってたところに2枚目をバシャっと撮られて(笑)。
「えっ。ちょっ。待っ」ですよ(笑)。
卒業アルバム、こないだ引き取りに行きましたけど、案の定、「真顔以上笑顔未満」みたいな微妙〜な表情でした。
- おかしいです(笑)。見たいです。
-
お見せしたくないです(笑)。
そうだ、入学した年に入学アルバムもあったんですよ。
- ありますよね、入学アルバム!
佐々木さん、それにも載っていらっしゃるのですか?
-
ええ。個人写真でなくて、駒場のクラス単位での写真ですけどね。
一学年上の同じ組のクラスの人を「上クラ」って言うんですけど、うちのクラスと上クラとの集合写真でした。
入学写真を撮ったときのことはよく覚えてるんですけど、遠い昔のことのようにも思えます。
懐かしいです。
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そして、卒業へ!
- 学期末試験は1月で、卒業が確定するのはその後、ということなんですね?
-
そうですね。
試験の成績は2月に出るんですけど、卒業者の発表は3月になってからなんです。
私は最悪でも刑訴さえ単位が取れていれば卒業確定だったので、2月に成績を見て、刑訴もアメ政も取れていて、おそらく成績優秀者にも入れたようだったので、さすがにほっとしました。
法学部4年生最終学期までの成果を見たい方はコチラ
- 最後の学期も良い成績だったのですね! おめでとうございます!
成績から卒業確定とわかっていても、発表までに間が空くと、なんだか落ち着かないような?
- そのへんはわりと、淡々としてました。
成績を見て、ああ卒業できるんだな、よかったなと思って、でも卒業したくないなあとも思って(笑)。
- ちょっとわかります(笑)。
卒業の発表はどうやってされるのですか?
- 学部の掲示板です。
ネットでなくて、文字通り物体としての掲示板に、卒業者の一覧が掲示されるんです。
私はその日大学に行けなかったので、人にお願いして見てきてもらいました。
- そしていよいよ卒業式! のはずだったのですよね……。
-
そうなんです……。
出席する気まんまんで楽しみにしてたんですけどね。
各学部の代表の学生だけが出席する形態になりました。
大学側も、例年通り全員参加で催行するかどうかをぎりぎりまで悩んでくれたと思うんですよね。
卒業生をみんな参加させてあげたい、でも安全も確保しないといけない、みたいに……。
安田講堂の椅子に座って式に感動したかったですよ!
- 卒業証書はどうやって受け取られたのですか?
紺の学位記フォルダを開くと、右側に学位記(法学士)、左側に成績優秀者表彰状
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卒業式の日に、教室でいただきました。
いつも講義を受けていた、法学部25番教室という大教室で。
安全上、人が集合できないので、全員が一堂に会して授与式が行われたとかではなくて、各自ぽつぽつと適当に教室に入っていって、名乗って、法学部の先生から手渡しで学位記のフォルダをいただくんです。
参列者もいないので、自分が学位記をいただく瞬間を誰かが見守ってくれてるわけでもないし、当然、拍手とかもないんですが、静かで厳かで、受け取る瞬間が静止画のように感じられて、本当に感慨無量でした。
- うわあ。私も感動です!
そしてお写真が素敵です!
-
このアカデミックガウンは、大学でレンタルしたんです。
卒業式のずっと前にもう借りていて、式には出られなくなりましたけど、そのまま返すのもなあと思って、式の日は朝から夕方まで着たままでいました(笑)。
アカデミックガウンを着る機会は、おそらくもうないでしょうからね。
ちなみに、このガウンに使われているライトブルーの色は「淡青」といって、東大のスクールカラーなんです。
※東京大学が発行している広報誌の名前も『淡青』といいます。
東大のアカデミックガウンは、学士(黒)、修士(青)、博士(紺・青)、法科大学院(赤)の学位別に4タイプ。
襟の下には東大マークである銀杏の校章
- そうなんですか! 爽やかでいいですね!
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「鎧伝サムライトルーパー」で私が演じた役「水滸のシン」の鎧の色もライトブルーなんですよね。
いえ、関係ないんですけどね(笑)。
さらにちなみに、東大法学部のカラーは緑色なんです。
- 「幽☆遊☆白書」の幽助の学ランは、緑……?(笑)
-
はっ、今気がつきました。
いやでもやっぱり関係ないですけどね(笑)。
例年は、卒業式の日に法学部の先生方との祝賀会みたいなパーティーがあるらしいんですけど、今年はそれも中止になってしまいました。
お世話になった先生方に直接ご挨拶をしたかったです。
- ああああ、それは本当に残念でしたね……。
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新しい何かの始まり
- 佐々木さんのこれまでのいろいろなストーリーを伺うと、その過程が本当にすごいです。
お仕事もそうですが、ご学業もこれまで積み重ねてこられて、こうして卒業が決まって、私も勝手に万感の思いです。
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入学してから好きなだけ学べて、無事に卒業できて、しみじみとじんわりと、すごく達成感が湧き上がってきてます。
でも、同時にやっぱり寂しい気持ちもあるんですよね。
東大の学生のひとりとして、7年間も、とても居心地がよくて充実した学習環境にいられたので。
卒業は区切りではありますが、今思うのは、この卒業は、自分にとってまた新しい何かの始まりなんだろうということです。
ここで卒業して学位も取ったからもう終わり、ということではなくて、これを手掛かりにして、またいろいろなことを学んでいきたいです。
そして、それが巡り巡って、声の演技者としても、自分の成長の糧になるといいですね。
大学での勉強と声の表現という仕事は、両方とも、自分という同じひとりの人間の中にあるものなんですよね。
だから、それらはいつか私の中で融合していくんだろうと思うんです。
- 大学での学問と芸能のお仕事は、一見すると全然違うことのように見えますけど、そのふたつが佐々木さんというひとりの人格の中に入ったことで関係してくる、必然的に、ということなんでしょうね。
- そうですね。どういう形で融合するのか、声の表現者としての自分の中で、この大学での経験がどう関わってくるのか、今はわからないんですけど、それを自分でも楽しみにしています。
- このインタビューをお読みになる方、たくさんいらっしゃると思いますが、その方たちも、佐々木さんのお話から勇気をもらったりして、もしかしたら新しい一歩を踏み出していかれるきっかけになるかもしれないですよね。
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どなたかのモチベーションを上げるお役に立てるとしたら嬉しいです。
でも、だからって、自分が何かの先人みたいに、上から、「大丈夫、絶対できるよ」とか、「あなたもこっちにおいでよ」とか、「やってみなよ」とか言う立場ではないと思ってます。
人はそれぞれ、やりたいことも環境も事情も違いますからね。
だから、私の体験も、「へー、こんなことしたこんな奴もいるんだ」みたいに、ひとつの事例、サンプルとして面白がっていただけるといいなと思ってます。
勉強したい!と思ってる方の刺激になるなら、もちろんそれは本当に嬉しいことなんですけどね!
- そうですよね!
それと、今回、ただ「卒業しました」という事実を発表するだけじゃなくて、卒業に至るまでの過程を、こうしてインタビューで佐々木さんご自身の言葉で聞けると、皆さんも安心する、と言うとおかしいかもしれませんけど、佐々木さんの言葉から、佐々木さんの人となりや考え方が、より伝わると思います。
卒業を機にこの「東大Days」というサイトを作られて、そこで発表するという仕方は、すごく皆さんのことを考えていらっしゃるなって。
ご自分の言葉でこうして丁寧に説明されるのが、優しくて思いやりのある、すごくいい発表の仕方だなと思います。
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ありがとうございます。
私の場合は、東大で学ぶおおもとの根本的な契機は、声優としてちょっとしんどい時期があったことから始まりました。
そこから今まで、いろんなことがすべて、つながってきたと思うんですね。
だから、やっぱりずっと応援してくださった方々とか、一般の方でも業界の方でも、私というひとりの声優の変遷とか成長を見てきてくださった方々には、私はこういう経験をしましたということを、自分の言葉でお話ししたいという気持ちがありました。
こうして場を設けていただいたことを、本当にありがたく思います。
それと、(インタビュアーの)永田さんには、以前から仕事でなにかとお世話になっていて、お話しする機会も多くて、今回のインタビューもぜひお願いできないだろうかと思ったんですよね。
お引き受けいただいてありがとうございました!
小学館さんの方を個人的な用事で使ってしまってすみません!(笑)
- (笑)。こちらこそ、ありがとうございます!
元からの佐々木さんのファンの方もそうですけど、逆に、今回のご卒業をきっかけに声優・佐々木望さんを知る方もいらっしゃると思うので、これからのご活躍の幅がどんなふうに広がっていかれるのかとすごく楽しみです。
今回お話を伺って、声優さんでありながらご学業を立派に修められて、本当に何か壮大なストーリーを観せていただいたように思いました。
あらためて、ご卒業おめでとうございます!
- ありがとうございます!