Vol.9 法学徒の脇道② 〜2014年冬、駒場〜
Specialインタビュー Vol.1はこちら >
蔵書と大学がつながる経験
各種の教室・研究室を有する建物はちょっとした迷宮
-
佐々木(以下略) 『ストリート・コーナー・ソサエティ』を読んで、あれ、たしか似たような本を持ってたなと思ったんです。
自宅の本棚をさらってみたら、参与観察の方法を使って書かれた本をいくつか見つけました。
『ハマータウンの野郎ども』とか、『ニッケル・アンド・ダイムド』とか。
※ポール・E・ウィリス著、熊沢誠・山田潤訳『ハマータウンの野郎ども』筑摩書房、1996年
※バーバラ・エーレンライク著、曽田和子訳『ニッケル・アンド・ダイムド ― アメリカ下流社会の現実』東洋経済新報社、2006年
- なんと! すでにそのジャンルの本をお持ちだったのですね!
-
自分でもびっくりしました。
大学に入るまでは、社会調査もフィールドワークもほぼ知らなかったので、普通に読み物として楽しんでたんですね。
どうりで、「コミュニティ・スタディ」はけっこう好きなジャンルかも、と思ったわけです。実際好きなジャンルだからその手の本をいろいろ持ってたんでしょうからね。
-
以前から個人的にお持ちで、読まれていた本が、実は大学で学ばれていることと共通した分野だったということですか!
もともとの幅広いご興味や知識と、新しく出会っていく学問がつながっていくなんて、お話を伺っているだけで、なんかもうドキドキします!
-
自分の蔵書と大学の勉強がつながった経験はこれ以外にもよくありましたけど、とくに「コミュニティ・スタディ」かつ「参与観察」というカテゴリーで多かったです。
どうも、どこの国のことでも、人について知るのが好きみたいです。
- やっぱりそれは、役者さんでいらっしゃるからというのもあるんじゃないでしょうか?
-
そうかもしれないですね。人を演じることを仕事にしているので、およそ人、それも現実に生きる人々に対しての興味はすごくあると思います。
コミュニティ・スタディとはちょっとずれるかもしれないんですが、いわゆる社会派の潜入記みたいなものも好きです。
ある集団に入ってそこで生活を体験してみた人の手記、という意味では似てますよね。
たとえば、黒人差別の実態を探るために肌を黒く変色させてアメリカの南部で生活してみたという、白人のジャーナリストの手記『私のように黒い夜』とか。
※ジョン・ハワード・グリフィン著、平井イサク訳『私のように黒い夜』ブルースインターアクションズ、2006年
- それは凄まじい体験ですね……。いつ頃のことなんでしょうか?
-
1950年代頃です。
映画化もされてるんですよね。まだ観てないですけど、ぜひ近いうちに観たいと思ってます。
60年代にも同様の手記があるんです。
『私のように黒い夜』に影響を受けて、女性の白人ジャーナリストが同じように肌を黒く変えてハーレムや南部で生活した “Soul Sister” という本です。
私が読んだのはこっちの方が先でした。
※Grace Halsell, Soul Sister (30th Anniversary Edition). Crossroads International Publishing, reprint, 1999.
-
文学だけでなく、本当にいろんなジャンルの本をお読みなんですね。
どうやって読む本を探したりされるんですか?
-
普通に書店で探しますよ!
ネットで買うこともありますけど、大きな書店の中を歩き回って書棚を見て回るのが大好きなんです。
「徘徊と渉猟」というタイトルをつけてます。
- タイトル?
-
自分のその日の行動に、です(笑)。
「今日は徘徊と渉猟の日だ。さあ出かけよう」て言って書店に行って、店内を徘徊して本を漁るんです。
至福のひとときです(笑)。
本屋さんに泊まれるっていう企画があると聞いたことがありますけど、その気持ち、よくわかります(笑)。
- ありますね、その企画! 泊まられますか?
-
いえ、泊まるって想像しただけでワクワクするので、その気持ちだけで十分です(笑)。
“Soul Sister” は、以前、もう10年くらい前ですが、ボストンにプチ留学していたときに、現地の本屋で「徘徊と渉猟」をしまして(笑)、そのときにたまたま見つけて、興味を惹かれたので買いました。
- プチ留学! どのくらい行かれてたんですか?
-
ほんとにプチで、たった2週間なんです。
あるときふと、人生どこかで留学してみたかったなあって思ったことがあったんです。
そしたら、「してみたかったって言ってるなら今すればいいじゃん」みたいに、いきなり出現したもうひとりの自分が言いだして(笑)。
- もうひとりのご自分が!(笑)
-
もうひとりの自分は私に似ないで、けっこう強気のイケイケなんですよ(笑)。
でもまあ、それもたしかにそうだなあと思って。
それで、直近で仕事に影響しない箇所のスケジュールを押さえてぱっと行ってきました。
そのあとちょっとシカゴに寄ったりしましたけど、本当にあっという間のプチ留学でした。
-
たしかに、「したかった」って過去形で言ってしまうのは誰しもありがちなことですけど、普通は本当に実行するのは大変ですから、それを行動に移せてしまうお力がすごいですね!
ぜひ、そのプチ留学のお話も伺いたいです!
- わかりました。いつかぜひ(笑)。
-
なんかもう、そのうち伺いたいことがたくさんたまっているんですが(笑)。
佐々木さんは汲めども尽きないようなご経験や教養をお持ちなので、いつまでもインタビューできてしまいます!(笑)
- いや、あれもやってみたいこれもやってみたいって、きっとよくばりなんでしょうね。
-
いえ、それだけバイタリティーをお持ちなんだと思いますよ。
それで、そのペーパーバックはどうでしたか?
-
白人のハルセルさんは、肌を黒くして、黒人のメイドとして上流階級の白人の主人に仕えるんですけど、その主人や家族から受ける仕打ちがかなりリアルにきつくて、かつハラハラする展開で、すごく面白かったです。
帰国する飛行機の中でずっと寝ずに読みふけってしまいました。
……そういえば、本とは別に、そのとき面白いことがありました。
シカゴ発成田行きの便で、私は通路側の席だったんですけど、窓側にいらした女性が、「私はお手洗いに頻繁に行くと思いますけど、(そのたびに前を通ることを)どうか許してくださいね」と離陸前におっしゃったんです。
- それは、英語で?
-
そうです。私がそのとき英語のペーパーバックを読んでいたので英語が第一言語だと思われたからなのか、もしくはその女性が普通に英語で話す方だったからなのか、そのときはわかりませんでした。
実際に、離陸したらその方は何度か席を立たれて、そのたびに「ごめんなさいね(Excuse me.)」といって私の前を通られました。
私は全然構わなかったんですけど、度々だったので向こうは恐縮してらして。
気を遣われたのか、席に戻られるたびにちょっとしたことを話しかけてくださって、英語で会話をしてました。
そしたら、何度目かに席を立たれたときに、その方が、後ろの方に座っている娘さんと思われる方と話をする声が聞こえたんです。
日本語で(笑)。
- 日本の方だったんですね(笑)。
-
なんだー、みたいな(笑)。
まあ、普通は国籍がどこかなんて人に言ったり聞いたりしませんからね。わからなかったですよね。
席に戻ってこられたときに私の方から日本語で話しかけたら、すごく驚かれました。
- 驚かれた?
-
ええ。その方は最初から私を日本人じゃないと認識してらしたようなんです。
まったく日本人に見えなかったとすごくびっくりされて、逆に、な、なんでだ?って思いました(笑)。
- ど、どうしてなんでしょうか?
-
私の英語の話し方がいわゆる日本人ぽくないみたいなことをおっしゃってました。
それは他の人からもよく言われるんですけど。
でも、それよりも、ちょうどペーパーバックを読んでたり、CAさんとも英語で会話したりしてたからなのかもしれません。
留学という意識があったので、行きの飛行機に乗ってから帰りの成田に着いて飛行機を降りるまでは一言も日本語を話さないぞって決めてたんですよね(笑)。
それが気迫で伝わったのかも(笑)。
- (笑)。せっかくの留学ですもの、できるだけ英語を使うようにしたいですよね。
-
実際、向こうにいたときはずっと英語で通して過ごしてきてたんですけどね。
日本人留学生と話すときでも。
でも、そんなわけで、その飛行機での隣の方とは、「なあんだ、日本の方でしたか」みたいになって、日本語の会話に切り替わって、より打ち解けました(笑)。
そしたら、今度は後ろに座ってらっしゃる娘さんの話から始まって、ご家族おひとりおひとりのお話をずっとずっと聞かせてくださって、終わらない終わらない(笑)。
なので、成田に着いて飛行機を降りるまでは一言も日本語を話さないという私の気概は、太平洋上空でもろく崩れました(笑)。
-
成田まできっとあと数時間でしたでしょうに(笑)。
でも『私のように黒い夜』も、“Soul Sister” も、読んでみたいです!
“Soul Sister” はぜひ佐々木さんに翻訳していただいて!
-
いいですね(笑)。
この本に限らず、英語で書かれた作品を読んでいると、人に紹介したくなることはありますよね。
- ぜひぜひお願いしたいです!!
続きを読む
憩いの授業は翻訳と文学
駒場と本郷との行き来に「どこでもドア」があったら楽だったのに……
-
翻訳といえば、翻訳家の柴田元幸先生の授業が文学部で開講されてたんです。
- あの柴田元幸さんの授業! すごいですね!
-
そうなんです! 柴田先生は大学に入るはるか昔から大ファンですから、ぜがひでも!と思って受講しました。
文学部の科目なので本郷キャンパスだったんですけど、履修は2年生でも可能だったので、普段の授業は駒場で、柴田先生の授業のときはダッシュで本郷まで行ってました。
-
駒場東大前と本郷はかなり遠いですよね?
しかも、お時間のない中で、学校やお仕事の道具を持って移動されるのですものね。
-
そうですね。けっこう距離があるので、東大生のためにドアツードアの「駒場―本郷エクスプレス」みたいな列車があるといいのにと思ったりしてましたね(笑)。
授業は、「英語の小説を訳す/読む」というもので、学期の前半は翻訳演習、後半は短編小説の講読でした。
翻訳演習では翻訳、小説の講読ではレポート、みたいに課題が毎回出て、授業では学生が出した翻訳やレポートをみんなで検討するんです。
- 講読、というのは?
-
読む、ということですけど、レポートには、読んで気がついた点や疑問点や分析みたいなことを書くんです。
私は普段、小説を読むときは普通にただ読んで楽しんでしまうので、はて何を書いていいのやらと思って、なかなか難しかったです。
他の皆さんのレポートは、登場人物のセリフの裏に秘められた心情を推察したり、人物同士の関係性について仮説を立てたり、小説のテーマがさりげなく暗示されている箇所を指摘したりしていて、小説に対してただただ「ふんふんなるほど、面白かった」で終わってしまう自分からすると、そんな学問的なアプローチができる方たちはすごいなあと思ってました。
こういうのも一定の訓練が必要なのかなあ、その訓練は今までしてこなかったなあと自省したりもして。
- そういった文学へのアプローチの教育を受けていらっしゃるのは、さすが文学部の学生さん、ということなのでしょうかね?
-
それが、文学部以外の学生もたくさん受講してたんですよ、柴田先生の授業は。
私含めて法学部も何人かいましたし、工学部の方とかも。大学院生も。
東大生は東大生ですけど、いろんな所属の東大生が集って小説や翻訳を論じるというのがとても刺激的でした。
- 柴田先生のもとで、いろんな学部の東大生たちが小説や翻訳を論じる教室! それはすごい場ですね!
-
そうなんです! すごい場にいられたもんだと思います。教室はいつも満杯でした!
翻訳の課題は、毎回ノリノリで訳して提出してました。
題材もいろいろで、小説も詩も絵本的なものもノンフィクションもあって、訳していくのが楽しかったです。
辞書オタクでもあるので、英和辞典も英英辞典もシソーラスもコロケーション辞典も国語辞典も漢和辞典も古語辞典もたくさん持ってまして(笑)。
それらを机に並べて訳文づくりに没頭してました。
あ、古語辞典はさすがに翻訳のときには使わなかったかも(笑)。
※シソーラスは類義語、コロケーションは連語の辞典です。
- 辞書オタク! 英語の辞書だけではないのですね?
-
英語の辞書が一番多いんですけどね。
英語ネイティブ・スピーカーの子ども用の辞典とかも持ってます。
- ご自分用に、ですか?
-
そうです、自分用に。
“Scholastic Children’s Dictionary” “Scholastic Children’s Thesaurus” “The American Heritage Children’s Dictionary” みたいなものを使ってました。
写真がたくさん載ってて、語彙も基本単語で説明されていて、学習教材としても使えますし、普通に眺めるのでも楽しめますし。お薦めですよ!
ただ、辞書として作りがしっかりしてて頑丈なのはいいんですけど、重くて角が固いので、うっかり足の上に落としたら足が粉砕されます(笑)。
- (笑)。
-
2外(第2外国語)で勉強してたので、スペイン語の辞書もいくつかあります。
それと、独和辞典と独英(ドイツ語―英語)辞典も。
ドイツ語読めないんですけどね、私はなんで持ってるんだろうか!(笑)。
- 佐々木さんはきっといつかドイツ語のお勉強をされるんだと思います(笑)。
-
私もそう思います(笑)。
それと、職業柄、もちろん日本語アクセント辞典も持ってますよ!(笑)
それで、翻訳の課題は、提出したものを丁寧に添削していただけるんです。
柴田先生に添削していただけるなんて感動です!
返していただいた翻訳は今も全部取ってあります!
-
それもまた見せていただきたいところです!(笑)
授業中はどんな感じだったんですか?
-
積極的に発言してました! 手を挙げて!(笑)
熱心で積極的な人がたくさんいらしてて、ディスカッションの熱量が高くて楽しかったです。
-
教室で挙手をして発言されている佐々木さん!
このインタビューを読まれて、それを観たいという方がたくさんいらっしゃるかもしれませんね?(笑)
-
いえいえだめですだめです(笑)。
翻訳は、日本語の訳語としてどの言葉をチョイスするのかとか、どの語順で並べるのかとか、文章の基本的なスタイルはとか、訳す人によってそれぞれ違うんですよね。
ディスカッションもそうですけど、訳した文からも、その人の言語感覚とか、言語的なリズム感とか、ときにはその人がそれまでどんな本を読んできたのかまで見えてきて、それも面白いです。
- 言語的なリズム感?
-
そうですね。自分は演じるときも書くときもリズムを重視しているところが大きいので、日本語の発話でも文章でも、人の言語的なリズム感に興味があるんです。
授業では、よりよい翻訳にするためには学生の訳文のどこをどう修正すればいいかを議論するんですけど、大学受験的な英文和訳とか英文解釈ではなくて、作品として読めるレベルの日本語訳を追求していくので、英語がある程度できるのは当然の前提で、その先に日本語力がすごく必要になるんですよね。
-
その点、佐々木さんは海外の文学を翻訳でも原書でもたくさん読まれていると思いますし、お仕事柄、日本語のプロですものね!
英語と文学がお好きな声優さんにぴったりの授業なのでは?
-
法学部のゼミでは下ばっかり向いてるくせに、翻訳の授業では前のめりぎみで発言しまくってて、変な法学部生ですよね(笑)。
でも本当に楽しかったです。
柴田先生の授業を受けられたことは、東大に入ってよかったと思ったことのひとつです、確実に!
- やっぱり何か道がつながっているというか、英語や文学がお好きな佐々木さんがまさに東大で受けるべき授業だったということなのかもしれないですよね。変な言い方ですけど。
-
そうですね、自分でもそうなのかもと思います。
柴田先生の授業には、本郷に行ってからも毎年参加させていただきました。
先生からは、佐々木くんは毎年来てるけど、いつになったら卒業するんだろうと思われてたかもしれませんね(笑)。
-
いえいえ、きっと先生もそんなに熱心に受講する学生さんがいらして嬉しかったと思いますよ!
それに、佐々木さんは大学で長く勉強をしたいということで在籍を延ばされていたんですから!
-
そうですね。長く在籍して、学部をまたいであちこち好きな授業に出て、と存分に大学を満喫できました。
ところで、東大法学部は「砂漠」と言われてるんですけど、もし私にとって法学部が砂漠だとするなら、柴田先生の授業はオアシスなのかもって思ってました(笑)。
いや、それは法学部がかわいそうかな(笑)。
いえ、法学部は大好きなんですよ!
- 東大法学部は砂漠! そ、それはどこから?!
-
みんな言ってます、「法学部砂漠」って(笑)。
学生だけでなく法学部の先生方もおっしゃってるので、公然の呼称なんだと思います(笑)。
- 昔から「法学部砂漠」と言われていたのですか!
-
いや、昔って戦前とかそこまで昔じゃないとは思いますけどね(笑)。
ゼミ形式の演習を除くと、基本的に法学部は大教室での講義が主で、先生がワンウェイ(片道)で講義をするスタイルなんです。
他の学部だと、少人数授業が多かったり、学生のプレゼンやディスカッションがメインだったりして、だから学生同士の繋がりも先生との結びつきも生まれやすいのかなと思うんですけど、法学部はそういう潤い要素がほとんどないので(笑)。
- 法律という堅いイメージの学問だからそうなるのでしょうかね。
-
それはあるかもしれないですね。
それと、特に学部生はまだ法学の入り口にいる段階なので、どうしてもある程度はひとりでじっくり勉強して理解していかないとどうにもならないんですよね。
だから、「砂漠」と言われても、まあ仕方がないね、ある意味本当のことだもんねと思います(笑)。
学生の数は多い学部なんですが、その中でひとりで講義を受けて黙々と勉強するなんて、集団の中でのいっそうの孤独感というか、寒々しいのかな、寂しいのかなと最初は思ってましたけど、慣れるとそんなに悪くないもんだなと思うようになりました(笑)。
そりゃ、いつもウェイウェイしたい人とかには向かない学部かもしれないですけど(笑)。
東大法学部は、良くも悪くも学生に対して相当に放任主義だと思うので、振り返ってみると、マイペースで勉強したいタイプの自分にはすごく合っていた学部でした。
-
東京大学なので、いつもウェイウェイしたい人に合う学部でなくてよいと思います(笑)。
でも、法学部ももちろん佐々木さんに合うというのは納得するんですが、もともと文学や芸術がお好きで、造詣がおありで、大学でもそんなに熱心に文学や語学の授業を受けられていて、やっぱりそっちの方が性に合うというか、文学部に行けばよかったなあ、みたいに途中で思ったことはなかったですか?
-
それが、法学をどうやって勉強したらいいのかわからない、どうしよう、どうしたらってずっと言ってたわりには、法学が嫌になったことは一度もなかったんです。
もし法学部の勉強が嫌になっていたら、他の学部に転部するとかしてたかもしれませんね。
でも、他の学部に行けばよかったと思ったことはなくて、どんなに難しい、できないと思っても、法学はずっと好きだったんです。
それは幸いなことでした。
まあ、ある意味ではやっかいなことともいえるんですけどね。
- やっかいなこと?
-
はい。法律科目が理解できない、勉強方法も分からない、試験を受けるレベルに至れない、必修科目が増えていく、という感じでプレッシャーはどんどんのしかかってくるんですけど、その一方で法学への憧れは変わらないし、だから分かるようになりたいという気持ちも強くなっていくジレンマみたいな……。
好きだけど手がかりがつかめない、という葛藤状態がずっと続いたんです。
- 簡単に諦められないような強い憧れだったんですね!
-
法学に対して興味があって好きで、というのは、単純に自分の性質に合ってたからなんでしょうね。
でも、それプラス、最初の時期からちんぷんかんぷんな状態がかなり続いたにもかかわらず嫌いにならなかったのは、私が法学ときわめて良い出会い方をしたからなんだろうと思うんです。
法学への興味や憧れは、駒場1年生のときに中里(実)先生の講義を受けるという偶然から始まっているので。
※インタビューVol.3参照
どの科目もそうなんでしょうし、勉強に限らず人に対してもそうかもしれないですけど、新しいものに出会うときは、その出会い方が肝心というか。
勉強なら、どんな授業や先生に出会えるかで、その先の伸び方やモチベーションや、もっと言うと後々の人生の展開みたいなものが影響を受けるんじゃないかと思うんです。
そういう意味で、私と法学との出会いは、とても良いものだったんでしょうね。
幸運な出会い方だったと思います。
-
なるほど、こうしてお話を伺っていると、大人になってから大学に通う醍醐味を感じます。
佐々木さんのように社会経験を積まれた大人の方が行く大学というのは、駆け抜けて通り過ぎていく大学ではなくて、その先に、より豊かな広がりを持つ場所なんでしょうね……。
次回、いよいよ必修科目の試験へ挑戦! 3年生冬学期の成果はいかに!5月29日(金)頃更新予定。