佐々木望の東大Days

東大Days公開記念! 佐々木望 Specialインタビュー

2013年に東京大学を受験し合格、この春(2020年)法学部を卒業した声優・佐々木望。
魅惑的なボイスで数々のキャラクターを演じ、人気と実力をあわせ持つ声優としてそのキャリアを重ねてきた彼が、仕事をしながら東大に入学し卒業したという発表は、私たちを心底驚かせた。しかも文系トップとされる東大法学部である。
いったいなぜ? どうやって? 何のために? 聞きたいことは山ほど浮かんでくる。
「東大Days ―声優・佐々木望が東京大学で学んだ日々―」公開記念のこの独占インタビューでは、受験から入学、キャンパスライフ、勉強のことなど、東大生としての日々を佐々木さんに伺ってみる。

インタビュアー:漫画編集者 永田裕紀子(小学館)

Vol.1 東大入学への軌跡 〜なぜ? どうやって東大に?!〜

普通の学生として大学生活を送りたかった


卒業式の日、安田講堂前で

まずは東京大学法学部ご卒業おめでとうございます! 今のお気持ちをお聞かせください。

佐々木(以下略) ありがとうございます。実は世の中の状況のために、東大の卒業式も大幅に縮小されて、私含む卒業生はほとんど式に出席できなかったんです。なので、卒業した感がいまいちなかったんですが……。でも当日は、安田講堂前にたくさんの卒業生が集まって賑やかでした。私もガウンを着て写真を撮りました。学位記もいただいたので、これからじわじわと実感が湧いてくるのかもしれません。

しかも、佐々木さんは法学部の成績優秀者として表彰されたとのことで! さらに素晴らしいご学業の達成を成し遂げられましたね。
ありがとうございます。
今、このタイミングで東大のことを発表されようと思ったのはどうしてですか?

合格したとき、発表はどうしようかなと思ったんですけど、大学に行くことは自分にとっては私的な領域のものだと思っていて、いち声優の私的な領域のできごとを皆さんに向けてお知らせするというのも変だなと思って、特に発表はしなかったんです。
大学に行くと言って、声優から何か別の道に行くのかなと思われてしまうのも困るしなあとも思って。
あとは、大学の勉強でどれだけ忙しくなるものなのかとか、生活もどう変わるかとか、入学してみないといろいろな変化が予想できなかったのと、勉強にも仕事にも集中したかったので、差し当たり大学に行くことは周りのごく限られた人だけに留めておく方がいいかなと思ったんです。

入学してからも、声優としての仕事のかたわらに通学したり課題をやったりする生活が結構ハードで、それをこなしていくのでいっぱいいっぱいだったので、結局、発表しないままでした。それで、今年(2020年)のこの卒業のタイミングで、何かひとつ区切りが自分の中ではついたので、この充実した日々のことをお話しして、皆さんに楽しんでいただけたらいいなと思って、ご報告しようと思いました。

これまで、佐々木さんが実は声優さんだとか、声優の佐々木さんが東大に行っているとか、人から気付かれたりしなかったんですか?
ほとんどなかったと思います。一人の学生として普通に大学時代を過ごしました。駒場(1、2年生が通う駒場キャンパス)のときはクラスがあったんですけど、クラスメイトには社会人だとは言ったんですが、何の仕事をしているかは話してなかったんです。中にはゲームやアニメが好きな人もいて、私が声優だと分かったらしいんですけど、ネットで私のプロフィールを見ても、どこにも東大在学中とは書いてなかったので、彼らは、ああこれは公表してないんだなと察して、黙っていてくれたみたいなんです。
さすが東大生ですね! 思慮深い!
クラスメイトでも先生方でも、もし私が最初に、自分は声優で歳はいくつなんて言ってしまうと、どうしても普通の学生としては扱いにくいというか、いろいろやりにくくなるんじゃないかと思って。先生によっては、私の方が歳上だったりもしますし。歳上だと知ってしまうと、「佐々木くん」とは呼びにくいでしょう(笑)。たぶんご指導もしにくいでしょうし。なにより、みんなと同じに受験して入学した普通の学生の一人として普通に大学生活を送りたかったんです。
うんうん、普通の学生として溶け込みたかったということですよね。そして溶け込めていらしたのがすごいですね。でもそもそも、なぜ大学に、しかも社会人でお仕事も順調なときにわざわざ入ろうと思われたのでしょうか。そして、その中でも最高学府の東大を選ばれたのは、どうしてなんでしょうか?
実はそんなにしっかり計画を立てたというわけではなかったんです。ある意味で流れのままにというか。結構長い話になるんですが……。

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そもそもは声優としての分岐点に始まる話なんですが……。

20年近く前に、仕事がちょっとハードめな状況が続いて、とはいえ特定の仕事のせいじゃないんですが、相当ひどい声帯炎になって声が出なくなってしまった時期があったんです。うまく対処できなかったので、なかなか改善しなくて。元々、役者の訓練をほとんどしないうちにデビューして自己流の発声をしてきたので、声帯に負担がかかっていたんでしょうね。そんなことになってしまって、当時はもういきなり闇の中に入ったような感じで、ああ自分はこれで声優としては終わったのかなとも思いました。それまでは、運よくめぐり合わせよく、周りの方々にお引き立ていただいていろいろな仕事をさせていただいたので、自分で訓練なり努力を重ねてきたのではないのだから、ここでキャリアが終わっても仕方がないのかなとちょっとだけ思いました。

でも、もう何年も声の仕事をしてきて、やっぱり自分は声の演技がすごく好きだと思ったんです。それなら、このまま諦めるのではなく、何か復調できる余地はないだろうか、そのためにできることは何でもしようと思って、それで、根本的に発声をやり直そうと、一からボイストレーニングと演技の勉強を始めたんです。

その時代は、起きている時間はずっと声のことや演技のことを考えていました。発声も呼吸法も肉体訓練も理論の勉強も、できることは全部やろうと思って。時には、張り切ってボイストレーニングしたせいで余計に声が枯れちゃったりとか、そんな馬鹿なこともしましたけど(笑)。いろいろ試行錯誤しながら発声と演技の学び直しを続けました。

その甲斐あってか、何年もかかりましたけど徐々に声の状態も改善してきました。そうすると、最初は必要に迫られて始めたトレーニングだったのが、発声や演技の勉強自体が面白くなってきたんです。

当時はずっと暗い中でもがいていた感じでしたけど、あの経験があったことで、本当に声の表現者としてやっていきたいと決意できたんでしょうね。若い頃にしてこなかった発声や演技の訓練をやり直すことで、あらためて自分で自分を教育したという感じなんですけど、技術的にいろいろなことを学べただけでなく、精神的にも、作品や役に対する気持ちの向け方が変わりました。それが後に役作りにも活かされるようになっていったので、今思えば、あれは私にとって必要な分岐点だったんでしょうね。

……という経緯で、声帯を痛めてから、発声と演技について自分で自分を鍛え直すという期間がありました。関連する本も手当たり次第に読んだんですが、そういった本は当時は和書より洋書の方が多かったんです。もともと英語は好きで、わりと勉強してきてたんですが、これはもっと読めるようにならないと、と思って、声と演技の訓練も続けつつ英語もさらに勉強しました。その勢いで、英検(1級)と通訳案内士(英語)の試験にも合格しました。
えっ、英検1級と通訳案内士に合格?! どどどうやって??? あ、いや、今日は東大のお話なので、英語の秘訣はまたの機会に是非!
分かりました(笑)。で、次のステップとして、発声や演技とは別になりますけど、大学の英文科みたいなところでもう少し英語を学べないかなと思いました。最初は外国語大学で英語学科とか英文学科とかを探してたんですが、どうも国立大学だとセンター試験を受けなければならないとわかって。あ、そうか、まずセンター試験か、と思って、なぜか楽しくなってきて。センター試験には英数国社理といろいろな科目があるんだから、今なにも英語だけに決め切る必要はなくて、もっと大きなくくりで「大学で学ぶ」と考えていいんじゃないかなと思ったんです。それで、東大を受けることにしました。
えっ(混乱)。「それで、東大」っていうのはだいぶ飛躍があるように思いますけど……。
そうですかね。でもその時は流れでそう思っちゃったんです(笑)。

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勉強する体力みたいなものがついていた
あれ、そういえば、センター試験からではなく、社会人入試で入ろうとは思わなかったんですか?
いえ、東大の学部は社会人入試枠はないんです。当然芸能人枠もないし。なので、普通に高校生たちと一緒にセンター試験と東大の試験を受けて入りました。
そうなんですか?! でもセンターも東大の試験も科目数がとても多いですよね? どうやって受験勉強をされたんですか? 準備にどれぐらいの時間をかけられたんですか?
始めたのは受験の一年半ほど前だったかと思います。受験勉強だけの期間を取ったわけではなくて、仕事の合間に勉強していたので、どれだけの時間をかけたかよく分からないんです。ただ、私の場合はもともと英語を勉強していたので、英語の受験勉強はまったくしませんでした。数学は、できるわけではないんですが、趣味的に時々やっていたので、まったく一から勉強した科目は、日本史、地理、古文・漢文、センター用の地学でした。
それは独学で?
ええ。一人でちまちま勉強するのが好きなんですよね。受験参考書や問題集で。ただ、ペースメーカーというか指針として、予備校の模試やセンター直前講座みたいなものは受けたりしました。
じゃあ独学といっても、対策はしっかりされてたんですね。
一応は、センターや東大の傾向も調べたりとかしつつ、楽しみながら勉強していました。
一人で勉強していると、時々、心が折れるというか、しんどいときはなかったですか?


本郷キャンパスにて

そんなに始終真面目に勉強してたわけじゃないので。できるときにできる範囲でマイペースにしてました。苦手意識のある科目はなんとなく後まわしになったりしがちなので、そこは気をつけて配分してましたね。古文はどうしても最後まで取っ付きづらくて、なんだこの外国語みたいな文章はと苦手だったんですけど、でもまあ少しずつですが、やり続ければ分かるようになってくるんですよね。

さっきお話したように、痛めた声を何とか戻したいと思って足掻きながら発声と演技の勉強をしていた時代が何年もあったので、自分で本を読んだり調べたりして自力で手繰っていったり掘り下げたりすることが全然苦じゃなくなっていたんです。文字を読んだり考えたり頭を整理したり、勉強する体力みたいなものがついていたというか。自分としてはしんどい時期にそういうことをやってきていたので、受験勉強はそれに比べれば全然つらいものではなかったです。そもそも、受験は強制ではなくて自分で決めて勉強しているわけですから。

(ここでスタッフが発言)そういえば、模試の優秀者欄に何度もお名前が掲載されていたそうですが?
はい。英語が、ですけどね。英語はそれまでにわりと勉強してきていたので、受験勉強としてはしなかったですけど、貯金で乗り切った感じです。東大の試験でも英語の得点に助けられました。東大受験は英語か数学のどちらかが得意だと、かなりアドバンテージがあると思います。その分、他の科目に勉強時間を回せますからね。
しかし、まさか声優の佐々木望さんが模試の優秀者欄に載っているなんて誰も思わないですよね(笑)。

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東大入試で繰り返し問われる「なぜか」と「どういう意味か」
そしていよいよセンター試験ですが、受けてみていかがでしたか?

センターの日は、降った雪がまだ固まりで残っていて、会場も家から遠くて、滑りながら行きました。受験生なのに本当に何度も滑って(笑)。

センターは、トータルで8割8分から9割取れると自分としては上出来かなと思っていました(900点満点で792点から810点に当たります)。本番で800点取れたので、まずは「足切り」も回避できただろうとひとまずほっとしました。
※センター試験で一定の点数以下だと志望する大学を受けることができなくなることを、いわゆる「足切り」といいます。

9割近い! すごいじゃないですか! これで二次試験も行けるという自信が出たのでは?

いやいやいや、東大はセンターと二次試験の点数配分が1:4で、圧倒的に二次試験の比率が高いんです。センター試験の得点は900点を110点に圧縮して換算されるので、センターが良くてもまったく気は抜けません。そもそも、800点って東大受験生には高くもない点なんですよ。

でも、センター試験で一番つらかったのは、科目が多いとか緊張感がとかじゃなくて、二日間朝から夕方まで狭くて堅い椅子に座りっぱなしだったことです。腰が痛くなりました(笑)。物理的なつらさです(笑)。

あはは。そしてセンターが終わって、東大に願書を出されたわけですね。
そうです。言葉では「東大の二次試験」といっても、センターは東大の試験ではなくて、二次試験ではじめて東大の試験になるんです。
佐々木さんは東大文一(文科一類)を受験されましたけど、文一は合格者最低点も平均点も文科で一番高いですよね?
高かったと思います。ここ2年くらいは年度によって違ったりもしているみたいですけど。ただ、文一に入っておくと、「進振り」(2年生までの成績によって3年生からの進学先を決めることができる「進学振分け」という制度)で多少有利かもしれないと聞いていたので、その方がいいなと思って文一にしました。自分の場合は「現役」とか「浪人」とかいう受験生ではないわけで、絶対に今年受からなきゃというのでもないし、それよりは入ってからの選択に自由がきくほうがいいなと思ったんです。まだどの学部に進むか決めていなかったので。
東大の試験って、どういう形式なんですか?
全部記述式なんです。科目は、文科の場合は、英語・国語(現代文・古文・漢文)・数学・社会で、社会は世界史、日本史、地理から2科目。私は日本史と地理を選択しましたけど、この社会2科目が重かったです。
記述式って何を書くんですか?
受験勉強をしていて、東大の試験は結局、どの科目でも共通して聞かれることがあると分かってきました。それは、「なぜか」と「どういう意味か」なんです。実質的には、このふたつがどの科目でも繰り返し問われているように思います。
ということは、たとえば歴史だと、年号や人名や事件名を答えさせるとかではなく?
その場で考えさせる問題が出るんです。歴史だと、見たこともないような史料がいきなり出されて、これが起きたのはなぜか、とか、これはどういう意味か、を答えるとか。大きな流れや背景は当然知っていないと答えを導き出せませんが、いわゆる詰め込み勉強というか、丸暗記はまったく必要とされないタイプの試験だと思います。
なるほど。東大の試験は、暗記ではなくて理解と思考力が必要ということですね。実際受けてみてどうでしたか? 手応えは?
今回は無理だろうと思っていました。でも、だめなら来年も受ければいいしと思って、気楽に受けました。東大キャンパスで東大の試験を受けたこと自体を楽しんだ感じです。試験はまったく手応えなかったんですけどね(笑)。


合格発表の日、掲示板の前で

そうなんですか! では合格発表の日はどんなお気持ちでしたか?

合格発表は本郷キャンパスに掲示されて、ネットにも載るんですが、どうせ受かってないんだからわざわざ出向く必要はないと思ってました。ネットも、すぐ見る気はしなかったんですが、いちおう確認しようと見てみたら、信じられないことに自分の番号があったんです。「え、嘘」と思って(笑)。で、掲示板を確かめに本郷に行ったんです、ネットは信用できないからなって(笑)。

キャンパスに着いた頃はもう夕方で、昼間はきっと賑わっていたはずの掲示板の前には誰もいなくて。自分の番号はたしかにあったので、「ああ受かったんだ……」と不思議な気持ちでした。合格自体には実感がなかったんですが、「胴上げのチャンス! 誰かー! ここで私を胴上げしてー!」とは思いました(笑)。早い時間だったら運動部の学生さんがしてくれたはずなんですが……早く行っておけばよかった。一生に一度の胴上げ体験になったのに、惜しいことをしました(笑)。

それは残念でしたね(笑)。でもおめでとうございます! じゃあ手応えがなくても、点数は良かったんじゃないですか?
試験当日の感触よりは得点できていたみたいです。ちょうど文一合格者の平均点より少し上くらいでした。
こうして、佐々木さんはめでたく東大生になられたわけですね。まだまだ伺ってみたいことが盛りだくさんです!

次回は、東大生となった佐々木さんのキャンパスライフについてお聞きしていきます!

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