Vol.4 或る法学徒の誕生 〜2015年春、本郷〜
Specialインタビュー Vol.1はこちら >
見どころもグッズも充実の本郷キャンパス
東大正門は1912年完成の登録有形文化財
- 3年生から法学部に進まれて、いよいよ本郷、赤門に通う佐々木さん。赤門の印象はいかがでしたか?
- 佐々木(以下略) そう、皆さん東大といえば「赤門」っていうイメージだと思うんですけど、メインの門としてはもうひとつ「正門」ってのがありまして、法学部の建物は正門側にあるんです。
※本郷キャンパスの門は全部で10箇所ほどあります。
- そうなんですね! よくテレビで赤門が映っているので東大といえば赤門だと思っていました。
- テレビ映えするのは赤門ですよね(笑)。
赤門の前にはよくテレビの撮影の方がいらしてて、東大生の取材なんかをされてました。
- 東大生の出る番組、増えましたよね。佐々木さんは取材されたりとかなかったんですか?
あ、でも公表していらっしゃらなかったので取材に来られても困りますよね?
-
ないですないです。取材されている東大生の横をよく通り過ぎたりはしてましたけど(笑)。
門の近くで、道ゆく東大生に向けてパンフレットやノベルティなんかを配る方たちが立っていらっしゃることがよくあるんです。就活イベントのスタッフさんとかでしょうかね。
私はいつも、学生に向けたそのパンフやら何やらを自分がもらえるかなあ、と思いながらその方たちの前を通り過ぎてました(笑)。
- も、もらえましたか?
- 何度もそういうことがあったんですけど、だいたい平均6割くらいの確率でいただけました(笑)。
気合を入れて通ると8割になります(笑)。
- なんですか、気合って?(笑)
- 学生オーラを全開に出すんです、全身から(笑)。
逆に、仕事の行き帰りで声優モードだったり、油断して普通のじいさんモードだったりするときはもらえないです(笑)。
いや、もらう前提でいるなよって感じですけど(笑)。
- (笑)。でも学生さんでも大学院生の方もいらっしゃるでしょうし、佐々木さんもすごくお若く見えますから、渡す人も普通に佐々木さんに渡してるんでしょうね。
-
まあ、東大生であることは間違いないので、いただいてもお許し願いたいです。
せっかくなのでいただいた就活パンフはいちおう全部目を通しました(笑)。
一度、パンフじゃなくて小さいビニール袋を配られたことがあって、なんだろうと後で開けてみるとプリッツだったんです。江崎グリコのプリッツ(笑)。就活生への激励のプレゼントだったんでしょうかね。
なんか嬉しくて、「おいおいプリッツだよプリッツもらっちゃったよ」みたいにひとりで楽しくなってたんですけど、我にかえって、「プリッツをもらって喜んでる自分」を客観視したときに……。
- ……ときに……?
-
さらに楽しくなりました(爆)。
脱線すみません、門の話に戻しますね(笑)。
正門も立派ですけど、普通といえば普通の門なので、テレビ局の姿はあまり見られないです(笑)。
でも正門からはまっすぐ銀杏並木が伸びて、正面に安田講堂がそびえ立っているので、正門もかっこいいと思います!
- 正門側は法学部で、赤門側には何学部があるんですか?
-
正門側は、法学部と文学部、工学部も近いですね。
赤門側には、経済学部、教育学部、社会科学研究所なんかがあります。
医学部、理学部、薬学部はまた別の門側で、農学部は隣の弥生キャンパスにあるんです。
実は、本郷キャンパスには以前撮影の仕事で来たことがあったんです。
でも、今回の本郷は東大生としてのマイキャンパスになるので、「ここに通えるんだ!」とかなり胸が高鳴りました。
- やっぱり、声優さんとしてお仕事でキャンパスに入るのと、東大生として自分の大学に通学するのとはお気持ちがぜんぜん違いますよね。
そのお仕事は、キャンパスの中での撮影だったんですか?
-
ええ。ファンクラブの会誌の撮影で。三四郎池とかで撮ったり、あとは本郷界隈を散策しているところとかを。
(夏目)漱石の『三四郎』が大好きなので、三四郎池に来たときはちょっと感動しました。「三四郎と美禰子の出会いはここかー!」って。
池としては普通の池なんですけどね(笑)。蛙がたくさんいました(笑)。
- 漱石がお好き! 海外文学だけじゃなく日本のも読まれるんですね!
- 日本文学は海外ほどは読んできてないんですけど、最近また読まないとなと思ってます。
漱石と(森)鴎外と芥川(龍之介)と三島(由紀夫)が好きです。中島敦も。安部公房も。内田百閒も。遠藤周作も。松本清張も。それからご存命の作家さんでは……。
- ぜんぜん、「読んできてな」くないですよ!(笑) 文学のお話もいつかぜひ伺ってみたいです。
-
はい、ぜひいつか(笑)。
駒場キャンパスもずいぶん前に雑誌の撮影で入ったことがあるんです。まだ、駒場寮という学生寮がキャンパスの中にあった頃に。
どちらにも撮影で来ているなんて、今考えると面白いですね。
医学部の建物を興味津々で覗いてみる
- さすが東大、それだけ撮影向きのスポットがたくさんあるんですね。
- 特に本郷は、重要文化財なんかになっている建物も多いですしね。
駒場のコンパクトな便利さに慣れていた自分にとって、本郷は相当広く感じられました。
慣れるまでしばらくは、何がどこにあるのか勝手がわからずに歩き回ってました。
- 建物も多いし敷地も広いし。たしかに迷いそうです。レストランやお店もいろいろあるんですか?
-
たくさんありますよ! 一番大きいのは安田講堂の地下の食堂で、その他にレストランもカフェも学食もいろいろあります。
あとは書籍部、購買部、東大グッズも売ってます。
書籍部がわりと大きくて楽しいんです。書店好きな自分にはとても居心地のいい場所です。
教科書類だけでなく、雑誌や旅行ガイドや漫画も売ってるんです。
- 漫画も! 購買部と書籍部があれば、大学の外に出なくてもたいていの物は買えそうですね。
-
そうなんですよね。駒場もそうでしたけど、日用品はもちろん、パソコンも新幹線のチケットも映画の前売券も、ほとんど何でも買えますし、旅行手配のカウンターもあるし、ATMもあるし、郵便局は至近だし、内科や歯医者さんなどが入っている保健センターも。
図書館も、総合図書館があって、各学部付属の図書館がそれぞれにあって。
それ以外にも、キャンパスには学生が普通に座って勉強できる場所があちこちにあるんです。
- キャンパスはまず勉強の場所ですものね。東大グッズというのは?
-
東大のロゴ入りのグッズです。ボールペンとか鉛筆とかノートとか手帳とか。トートバッグ、クリアファイル、Tシャツなんかも。
「東京大学」とか「UTokyo」とかベタなロゴが入ってます。
「東京大学」Tシャツは着て歩いてみたい気もしますね(笑)。
※The University of Tokyo の略
食べもの系だと、クッキー、チョコレート、ゴーフルなんかもあります。
「赤門ラーメン」とか「東大植物園のど飴」とかも。
- 東大のロゴ入りペンとかノート! 受験生はほしいのでは?!
- 東大鉛筆を受験生にプレゼントしたことがありますけど、喜んでもらえたかはわからないです(笑)。
- 赤門ラーメンも食べてみたいです! のど飴って、東大植物園というのがあるんですか?
-
小石川植物園のことだと思います。日本最古の植物園で、東大の施設なんです。
前に、東大の先生が中を案内してくださるツアーに参加したことがあるんですが、専門の研究者の先生の説明なのでアカデミックな感じで、でもわかりやすくて面白くて堪能できました。
見どころもたくさんありました。ちょうど桜の開花の時期だったので、華やかでした。
- 近隣の施設にもいろいろな見どころがあるんですね、東大は。
-
そうですね。私もまだ行ったことのない施設がたくさんあります。
こういった、いわゆるキャンパスグッズ的なものとはまた別に、東大の研究成果を利用して作られたグッズもいろいろ売ってるんです。お酒とか化粧品とかサプリとか。
農学部系の研究になるんでしょうかね。
- お薦めはありますか?
-
いや、のど飴もラーメンもチョコレートもお酒もまだ試したことがないです。
今度試しておきます、すみません(笑)。
アミノ酸ゼリーみたいな商品は食べたことがありますけど、何となーく元気になる感じはしました(笑)。
東大ゴーフルは、普通にゴーフルでおいしいですよ!
続きを読む
すべる授業とすべらない授業
- では授業のお話をお願いします! 夏学期はどんな科目を……。あ、これが時間割ですね? うっ、このマークは……?!
科目についてのまあまあ詳しい話を読みたい方はコチラ
-
3年夏学期は必修の「憲法II」と「民法II」が始まりました。
これは先学期、2年生のときの「憲法I」と「民法I」を履修済みという前提で配置されているんですが、私はどちらの試験も撤退したために単位を取っていないので、これだけでもうプレッシャーでした。
さらに、「商法I」と「行政法I」も必修科目として加わってきます。
憲法も民法もちんぷんかんぷんな私に商法や行政法がわかるわけないですよ。
- ああ……。だから科目のところに不吉なマークが(笑)。
- 「刑法II」は必修ではないんですけど、刑法は好きな感じがしたので履修してみました。
でも、先学期の「刑法I」は決してよく理解できていたわけではないので、IがおぼつかないままにIIも受けてしまうのには抵抗を感じて、履修はしたんですが結局試験は受けませんでした。
- え、「薬事法」って? 薬学部の科目なんですね。
-
ええ。これは興味本位で聴講に行きました。なので講義は毎回聴いてたんですけど試験は受けてないんです。
試験を受けなくていい科目は、安心して楽しんで聴いていられます(笑)。
薬学部の建物は法学部からすごく遠いんです。講義と講義の間の時間が10分しかないので、いつも薬事法終わりでダッシュで法学部棟に戻って「民II」の教室に駆け込んでました。
- 「民I」の単位をまだ取ってないので「民II」がプレッシャーとおっしゃっていましたけど、授業にはきちんと出られていたんですね。
- 出てました。そのへんは真面目なので(笑)。でも内容はわかっちゃいなかったですけど。
- 「会計学」? これは法学部の科目なんでしょうか? それとも経済学部?
-
法学部科目です。経済学部にも会計学の講義はあると思いますけど。
経済学部の方は、もっと専門的だったり実践的だったりするのかもしれません。
法学部科目の「会計学」は、計算よりも、たとえば貨幣の意義みたいな、会計学の基礎にあるものの考え方を学ぶ感じでした。
- 会計学にご興味が?
-
いえ、そういうわけじゃ……。
必修の法律科目ができるようになる気がしなかったので、せめて何か他に取ろうと思ってシラバスを見まくって、もしかしたらこれなら単位を取れるかも、と思ったので履修したんです(笑)。
でも、教え方がわかりやすくてお話が面白い先生で、新たに学べることも多くて、取ってよかったと思う科目になりました。
- あ、必修だけど「英米法」には不吉なマークが付いてませんね!(笑) これは大丈夫でしたか?
-
あはは。憲民刑商行という肝心の法律科目が軒並みダメダメなので、せめて外国法だけはと思って。
「英米法」は、「ドイツ法」と「フランス法」の中からひとつ選ぶという選択必修でした。
勉強して試験もちゃんと受けて単位も無事に来たので大丈夫です!
この講義ではアメリカ法をメインに扱っていたんですが、アメリカの事件の概要や判例を読むのが面白かったです。
たとえば、ブラウン判決やロー対ウェイド事件判決などは、アメリカ社会についての本を読んで以前から知っていたので、授業でそういう知っている事例が出てくると前後の文脈がすごく理解しやすいんですよね。
- 前からお持ちの知識が大学の授業の中でつながってくるのがすごいです。
-
アメリカ文化とか社会とかに興味があるんです。特に、公民権運動とかフェミニズムとか若者のカウンター・カルチャーとかに。
だから関連の本もいくつか読んできてました。
そのときは大学で役に立つとは思いませんでしたけどね。
新たに得た知識が持っていた知識と頭の中でつながった感覚がするときって、頭の中に新しい回路というか水路というか、そんなものが生まれたような感覚になります。
モチベアップに何度も観た/読んだロースクールの物語
-
英米法関連でもう少しお話しすると、ハーバード・ロースクールの学生たちを描いた「ペーパー・チェイス」という映画があって、それが大学に入る前から好きだったんです。
自分が将来法学部に行くなんて、当時は思ってなかったですけど。
法学部に入ってからまた何度も観返して、映画の他にTVシリーズにもなっていると知ったので、そのDVDも輸入して、勉強が行き詰まるたびに観ていました。
勉強はしょっちゅう行き詰まっていたので、「ペーパー・チェイス」もしょっちゅう観てましたね(笑)。すごくモチベーションが上がります。
テレビ版は字幕がないのでよくわからないところもあるんですけど、映画版もテレビ版も、自分のオールタイム・ベスト10に入るくらい好きなんです。
主人公のハートという学生の声を自分で吹き替えしたいくらいです(笑)。
- それはぜひ吹き替えてください!(笑) 法律もわかっていて作品も何度も観ている佐々木さんがやるのが絶対いいと思います!
- ありがとうございます(笑)。ハートには私自身が本当にシンクロしてるんです。
1936年完成の医学部2号館はヨーロッパ建築のような美しさ
- ハーバードが舞台ということは、「英米法」の授業ともイメージが重なる感じだったりしましたか?
-
そうなんです! 「ペーパー・チェイス」の冒頭に出てくる、“毛むくじゃらの手”という有名なアメリカの判例があるんですが、それが英米法の教科書にも載ってたんです。
見つけたときは、「この判例知ってる! 『ペーパー・チェイス』のだ!」とひとりで興奮してました(笑)。
原作のペーパーバック、John Jay Osborn, Jr. の “The Paper Chase” も入手して読んでます。
それともう一冊、これもハーバード・ロースクールを舞台にした有名な小説、Scott Turowの “One L” も。
読むと気持ちが高まります。気持ちは(笑)。
- 法学の勉強をされて、行き詰まると英語のDVDを観て、洋書も読まれて……。なんか求道者のようです。
あ、あと、これは? 教育学部の「英語教授法・学習法概論」?
-
放送大学やNHKにも出演されている斎藤兆史先生の授業でした。
先生のご著書『英語達人列伝』(中公新書)を愛読していたので履修しました。
なんとミーハー的な(笑)。
でも、斎藤先生の英語の教授法をぜひ学びたくて。
自分が英語の先生になるわけじゃないですけど、学習者として教授法を学んでみるのは面白いだろうなと思ったんです。
- ああ、そうなんでしょうね! 教えることと学ぶことがご自身の中でつながるというか。
-
まさにそうですね。実際、授業の内容に得られるものがとても多かったことに加えて、斎藤先生のお言葉の端々から、英語教育に関わられる方としての情熱がすごく伝わってきました。
『英語達人列伝』の著者の方もまた「英語達人」だし伝道者なんだなと、講義を受けて感じました。
あ、それで! ちょうどその学期中に、名古屋の大学で開催された英語教育に関するシンポジウムに先生が登壇されるということで、名古屋まで聴きに行ったんです。
- 名古屋まで?!
-
ええ。プチ旅です(笑)。
他に、鳥飼玖美子先生や大津由紀雄先生も登壇されました。
英語学習者にはとても豪華で貴重な講演会でした。
シンポジウムが終わって、そのまま帰るのもどうかなと思ったので斎藤先生にご挨拶したんですけど、すごく驚かれました(笑)。
- そ、そうでしょうね。普通の学生さんは、あまり東京から名古屋にシンポジウムを聴くためだけに行ったりしないような……。
-
たしかに。そのへんは動こうと思ったら動ける大人の強みですかね(笑)。
でも、この講演会は本当に面白かったですし、名古屋プチ旅行も楽しかったですよ!
- すごい行動力です。大学に行かれたり、名古屋まで行かれたりする合間には、当然、お仕事もされているわけですものね。
佐々木さんの、知ることや学ぶことに対する飽くなき探究心とか好奇心とか、その原動力ってどこからくるんでしょう?
- 興味があることに対してだけなんですけどね。けっこうオタク気質ではあると思います(笑)。
- で、佐々木さん佐々木さん。
いまずっと、けっこう熱く語られてましたが、必修科目についてはあまりおっしゃってないような……(笑)。
なんとなくそのあたりはお避けになっているのかなあ、なんて思えたりするんですけど……(笑)。
-
ああーはい、そうですね……。そのあたりは熱く語れない部分ではありますね(笑)。
話を避けてるわけではないんですが、いや避けてるのかな。あっ避けてるのかも(笑)。
ええと、結論から言いますと、時間割の“すべったマーク“の科目については、夏学期の学期末試験を全部ブッチしました。
※「ブッチする」=①俗に、大事な用事から逃げ出す。さぼる。「授業なんかブッチしよう」②俗に、約束を破る。無視する。「約束をブッチした」(三省堂「大辞林」第3版)
- ええっ! で、でもこれ、必修ばっかりですよ?!
次回、本郷での法学の学びに一体なにが起こっているのか? その「問題」とは??