今日はまず、ロンドンの中心地であるシティ・オブ・ロンドンに向かいます。
地下鉄テンプル駅で降りました。
すぐ近くに、テンプルと呼ばれる法曹界の区域があります。
駅前で、界隈の案内をお願いしていた現地の弁護士さんと合流します。
日本から来た法学生だと話すと、それはぜひ、このエリアをいろいろと見ていってほしいとおっしゃいます。
日本とイギリスの法律の比較などを話しながらテムズ川沿いを歩き、テンプル地区に入ります。
おととい行った王立裁判所もこのすぐ近くです。
映画「ダ・ヴィンチ・コード」でも有名な、イングランド国教会のテンプル教会を見学します。
1215年に制定されたイギリス最古の憲法典「マグナ・カルタ(大憲章という意味です)」のコピーが展示してありました。
自由と人権という概念の起源であると言われるこのマグナ・カルタ、今も一部は現行法なのだそうです。
教会の上階で写真展をやっていました。
この写真群に大変興味をもったので、展示会のブックレットなどがあれば購入したいのですがとスタッフの方に尋ねたのですが、(当時は)ないということでした。
さらに粘って、もし今後これらの写真が載った本などが出版されるようなことがあったら教えていただけないかとお願いして、メールアドレスを記してきました。
われながら図々しいというか、こういうところには押しが強いのです。
でも、後でよく考えたら、テンプル教会は写真展の会場だっただけで、私が尋ねた相手も教会のスタッフさんだったので、写真集の存在について知らせてくださいなどとお願いするのはずいぶんと筋違いなことだったかもしれません。
※写真展のタイトルは「Of Things Not Seen: A Year in the Life of a London Priest」。写真家Jim Groverさんが、南ロンドンにあるイングランド国教会の、ある司祭の一年を撮ったものです。帰国してからウェブサイトを見つけました。
http://www.ofthingsnotseen.com
フィリップ・グレーニング監督「大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院」(Into Great Silence)という映画があります。
あるフランスの修道院に生きる修道士たちを撮影したドキュメンタリー作品です。
ドキュメンタリーといっても、BGMもナレーションもありません。
この作品がとても好きで、何度でも観てしまいます。
トータルで3時間くらいあるのですけどね。
何度観ても惹かれますし、落ち着きます。
作品にあやかって、自分の心がけまで良くなった気すらします。
私が持っているDVDはドイツ語版ですが(なぜ)、日本語版も出ています。
テンプル教会の周りに建つインズ・オブ・コートを見て回ります。
インズ・オブ・コートは法廷弁護士の組織で、4つの法曹学院(ミドル・テンプル、インナー・テンプル、リンカーン、グレイ)から成っています。
テンプル教会
インズ・オブ・コートの中庭
ふたたび王立裁判所に入ります。
今日は弁護士さんによる詳しい解説つきなので、おととい来たときよりもさらに楽しめました(裁判所に対して「楽しめる」という言い方は不適切かもしれませんが)。
弁護士さんと別れてテンプル駅に戻ります。
途中で紅茶専門店トワイニング(TWININGS)本店に立ち寄り、買い物をします。
英国王室御用達の店です。
さらに、駅に行く道の途中にあるトゥー・テンプル・プレイス美術館に入ります。
この建物の中は展示会が開催される期間のみ一般公開されるので、普段は入れないのですが、ちょうどこの日は展示会期でした。
ラッキーです。
ギャラリーと建物を見学した後、テンプル駅から地下鉄に乗り、ベイカー・ストリート駅で下車します。
駅名そのままですね、この近所にシャーロック・ホームズ博物館があるのです。
シャーロッキアンの末席に連なる者(と自分で言っても許されるならば、ですが)として、ロンドンに来ておいてここを訪問しないわけにはいきません。
子どもの頃は創元推理文庫の阿部知二さん翻訳版を、大人になってからは小池滋さん翻訳の詳注版を主に読み込んでいました。
たまに『シャーロック・ホームズ大百科事典』も眺めました。
近年刊行された河出書房新社と偕成社の全集も気になるところです。
挿画は、「ストランド・マガジン」連載時のシドニー・パジェットによるイラストが、やはりいいですね。
※コナン・ドイル著、阿部知二訳『シャーロック・ホームズの冒険』東京創元社、1960年
※コナン・ドイル著、小池滋訳『詳注版 シャーロック・ホームズ全集』筑摩書房、1997-1998年
※ジャック・トレイシー著、日暮雅通 訳『シャーロック・ホームズ大百科事典』河出書房新社、2002年
※アーサー・コナン・ドイル著、小林司/東山あかね訳『シャーロック・ホームズ全集』河出書房新社、2014年
※コナン・ドイル著、各務三郎訳『完訳版 シャーロック・ホームズ全集』偕成社、2003年
ベイカー・ストリート駅に戻り、ジュビリー線でロンドン北西部のフィンチリー・ロード駅まで行きます。
目的地は、駅から徒歩で10分ほどのところにある高級住宅地ハムステッドにあります。
レンガ造りの家が建ち並ぶ住宅地に入ったところで、道が分からなくなってしばらくうろうろしましたが、無事に見つけました。
フロイト博物館です。
精神分析学の始祖ジークムント・フロイトが最晩年を過ごした家です。
外観は高級住宅地の中の一軒の家にしか見えないので、通り過ぎてしまっていました。
2階に上がる階段の踊り場にフロイトの著作の各国語翻訳書が並べられていて、その中に、戦前に出た日本語の全集もありました。
※フロイド著、大槻憲二/對馬完治/長谷川誠也/矢部八重吉訳『フロイド精神分析学全集』春陽堂書店、1929年
それを見たとき、フロイトの全集(日本教文社『フロイド選集』全17巻)がほしくてたまらなかった子どもの頃の記憶が一瞬で甦ってきました。
まあ子どもなので当然、買えません。
周りの大人に「フロイトの精神分析の全集がほしい」と言っても相手にしてもらえません。
そもそも、読めるんかおまえ、という感じですね。
それでも、7巻目の『藝術論』だけをなんとか自力で購入しました。
当時の私には手が震えるような価格でした。
※フロイド著、高橋義孝/池田紘一訳『改訂版フロイド選集 第7巻 藝術論』日本教文社、1970年
ミステリやサスペンスやSFやハードボイルド小説に浸っていた子ども時代でしたが、一時は、どんな小説よりも『フロイド選集』(全17巻)がほしかったのです。
なにをもってそんなにほしくなっていたのか、そのきっかけなどは覚えていませんが、装丁やタイトルの字体や表紙のデザインや本の大きさや手に持ったときのハードカバーの感触(書店に行くたびにフロイド選集の棚に行って手に取り、ほしいほしいほしいほしいと思いながらひとしきり眺めては棚に戻していました)が大変に好ましく思えていたのです。
そのときから、大人になったら必ず『フロイド選集』(全17巻。藝術論も買い直す!)を揃えるのだと思って生きてきました。
いわゆる、「大人買い」ですね。
私は大人になりました。
あるとき、ついに『フロイド選集』(全17巻)を買う日が来たことを悟り、持ち帰り用に空の大きなバッグを用意して大型書店に出向きました。
『フロイド選集』(全17巻)は絶版になっていました。
※現在はオンデマンド版で購入できるようですね。ただ、装丁が当時と異なるのです。元本のあの装丁がいいのに……。でもオンデマンド版が出たのはありがたいことですね。
フロイト博物館の2階には、サルバドール・ダリによるフロイトの肖像画や、マリリン・モンローの写真が飾られていました。
モンローは、フロイトの娘アンナ・フロイトの患者だったのですね。
2018年には、ここでモンロー映画の上映展が行われたそうです。
私、モンロー大好きなのでここでまた少し脱線しますが(そもそもこの記事自体が「東大Days」からの脱線ですねすみません)、何かで見た、本棚の前に立ってイプセンの『民衆の敵』(An Enemy of the People)という本を読んでいるモンローの写真にとても惹かれています。
映画では、「ノックは無用」、「ナイアガラ」、「バス停留所」を特に好ましく思います。
フロイト博物館のミュージアム・ショップでDVDを買いました。
アンナ・フロイトによるコメンタリー付きです。
※Sigmund Freud Home Movies, 1930-39
通りを挟んで反対側にあるアンナ・フロイト・センターの外観を眺めてから次の目的地に向かいます(アンナ・フロイト・センターは小児の精神療法についての研究機関で、一般には公開されていないのです)。
フロイト博物館
アンナ・フロイト・センター
フロイト博物館から歩いて10分足らずでタビストック・クリニックに着きました。
クリニックといっても、巨大な建物です。
ここは、イギリスの精神病理学や心理療法の分野における中心的な研究所です。
クリニックの前にフロイトの銅像が建っていました。
以前、子どもの精神分析に興味をもち、何冊かの面白い本を読んだことがありました。
その後、東大に入ってから丹野義彦先生の「心理II」という講義を受けたことで興味がさらにつのり、今回のロンドン旅行で訪問地を決めるにあたっては、先生のご著書『ロンドン こころの臨床ツアー』を大いに参考にしました。
タビストック・クリニックも、この本に紹介されていた機関です。
※J. D. コール/E. ギャレンソン/R. L. タイソン編、小此木啓吾監訳『乳幼児精神医学』岩崎学術出版、1988年
※メラニー・クライン著、小此木啓吾/衣笠隆幸/岩崎徹也訳『児童の精神分析』誠信書房、1997年
※丹野義彦著『ロンドン こころの臨床ツアー』星和書店、2008年
フィンチリー・ロード駅に戻り、駅前にあるカルナック書店に立ち寄ってみます。
精神分析や心理療法に関する専門書を扱う書店です。
レジの前のワゴンに積まれていた本の中に日本語の本が一冊あったのが目に飛び込んできました。
これは買ってしまいますね。
タビストック・クリニック訪問記念買いです。
※平井正三著『子どもの精神分析的心理療法の経験―タビストック・クリニックの訓練』金剛出版、2009年
またジュビリー線に乗り、チャリング・クロス駅で下車します。
トラファルガー広場に面したナショナル・ギャラリーに入り、ヨーロッパ絵画のコレクションを鑑賞します。
フレデリック・ワイズマン監督の「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」という好きなドキュメンタリー映画がありますが、当たり前ながら、やはりこの目で実際に観るのがいちばんいいですね。
※インタビューVol.11参照
夜は、ナショナル・ギャラリー近くのトラファルガー・スタジオで、サム・シェパード原作の舞台「埋められた子供」(Buried Child)を観劇して感激します。
終演後はパブで一杯エールをあおり(ロンドンで舞台を観た後にこれをするのが憧れでした!)、地下鉄でホテルに帰ります。
今日も朝から歩きまくってさらに健脚になりました。
明日もロンドンを探索します。
タビストック・クリニック
カルナック書店
トラファルガー広場とナショナル・ギャラリー