佐々木望の東大Days

東大Days公開記念! 佐々木望 Specialインタビュー

2013年に東京大学を受験し合格、この春(2020年)法学部を卒業した声優・佐々木望。
魅惑的なボイスで数々のキャラクターを演じ、人気と実力をあわせ持つ声優としてそのキャリアを重ねてきた彼が、仕事をしながら東大に入学し卒業したという発表は、私たちを心底驚かせた。しかも文系トップとされる東大法学部である。
いったいなぜ? どうやって? 何のために? 聞きたいことは山ほど浮かんでくる。
「東大Days ―声優・佐々木望が東京大学で学んだ日々―」公開記念のこの独占インタビューでは、受験から入学、キャンパスライフ、勉強のことなど、東大生としての日々を佐々木さんに伺ってみる。

インタビュアー:漫画編集者 永田裕紀子(小学館)

Vol.2 駒場のキャンパスライフ 〜東大1年生スタート!〜

武道館ふたたび


語学の授業を受けた駒場キャンパス1号館

さて、佐々木さんは東大の文科一類にめでたく合格されて、駒場キャンパスでの大学生活が始まりました。学部のシステムはどうなってるんですか?

佐々木(以下略) はい。入試の入り口は文科理科とも一類から三類に分けられているんですが、入学後はその全員が(前期)教養学部に所属することになります。1、2年生を駒場で、3年生からはそれぞれ専門の学部に進んで本郷に行くことになるんです。
あ、本郷というのは例の赤門があるところです。よくニュースとかに映る。

クラスとかもあるんですか?
駒場ではあるんです。入学のとき、というか受験のときに第二外国語(「二外」といいます)を選択するんですけど、科類と二外によってクラスが決まるんです。私たちのクラスは「文一文二スペ語クラス」のひとつでした。
「スペ語」? あ、スペイン語のことですね?(笑)
これ他では言わないんでしょうかね?(笑) スペ語、ドイ語、フラ語、チャイ語(中国語)、イタ語、なんて言われてました。二外の授業はクラスごとに受けるので、駒場時代はクラスメイトと毎日のように顔を合わせてました。
そうそう、クラスメイトのことは「同クラ(おなくら)」と言うんです。
同じクラスだから「同クラ」ですね(笑)。佐々木さんはそもそもどうしてスペイン語を選ばれたんですか?
それまではほぼ英語しかやったことがなかったので、英語の次に学ぶのは、世界で話者の数が多い言語にしようと思っていまして。
それで、スペイン語か中国語のどちらかかなと考えたんですけど、前からガルシア=マルケスやバルガス=リョサなどのラテンアメリカ文学が好きだったので、いつか原書で読めたらなと思ってスペイン語にしました。
海外文学がお好きと伺ってましたが、欧米のものだけじゃないんですね! それで原書もスイスイ読めるようになりましたか?
いやいや、それにはとんでもなく道のりが遠いですよ!
二外の必修の授業は週に3コマあって、先生も教科書も内容もそれぞれ違って、かつミニテストが毎回あったりして、予習とミニテストの勉強に追われました。
1年冬学期からは必修以外にもスペイン語の授業をいくつか取りましたけど、本郷キャンパスに行ってからは法学で手一杯で語学をやる余裕がなくなってしまったので、もうけっこう忘れてしまいました。またいつか再開したいですけどね。
もうそれはぜひ! そういえば、入学式あるんですよね。参加されましたか?
行きました行きました。東大の創立記念日が4月12日なので、入学式も原則この日に行われるんです。会場は日本武道館でした。
その2年ほど前に武道館で行われたイベント(「テニプリフェスタ2011 in 武道館」)に出演して歌ったりしていたので、同じ会場で今、大学の入学式に新一年生として座っている自分がすごくすごく不思議だったことを覚えてます(笑)。
テニプリの亜久津ですね! 日本武道館に、ある時はパフォーマーとして、ある時は新入生として(笑)。
そんなご経験をされる方は滅多にいらっしゃらないかと(笑)。
入学式の式辞を座席で聴きながら、「ええっと、こないだ武道館に来たときは座席じゃなくてあのステージ上にいて歌ってたんだよな、自分」みたいに壇上を見ていました(笑)。自分でも、落とし込めないというか腑に落ちないというか、ひたすら納得できない感覚でした(笑)。

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日本一受けたい授業たち
東大の学期は、一年二学期制なんですか?
そうですね。一年は夏学期と冬学期の二学期で、夏と冬に学期末試験があります。
※現在はそれぞれ「Sセメスター」「Aセメスター」という名称に変わっています。
ではまずは1年生の夏学期ですね。実際に、履修する科目はどのように決めたのでしょうか?

特に1年生のときは、語学などの必修科目が多くて、それらの単位を取らないと進級できなかったりするので、必修を早めに取り切れるように優先して時間割を組みました。
でも、それ以外のコマはある程度は自由にカリキュラムを組めるんです。選べる範囲はありますけど、空きコマに何を入れるか、自分で選択できるんですね。

膨大な数の科目が開講されているので、新学期が始まった4月は、シラバス(科目の概要が書いてある冊子)をいつも持ち歩いて首っ引きで、興味の赴くままにあの授業この授業とあちこち顔を出して。結局、空きコマがほぼなくなるくらい入れられるだけ入れました。

これが1年夏学期の時間割ですね! すごい! 本当にぎっしりじゃないですか?!

科目についてのわりと詳しい話を読みたい方はコチラ


時間割 教養学部一年夏学期

この時間割は「履修登録した科目」ということなので、もちろん実際は毎回全部に出てたわけじゃないですよ。
でも仕事関連がない時間帯はほぼ全部行ってたと思います。物理的に移動可能なときは。
興味ある科目はつい、ほいほい入れてしまって、なるべく出席しようとしてましたけど、結局「基礎統計」だけは難しくて手も回らなくなって、途中で撤退してしまいました。
どれも面白そうですね。そしていろいろなジャンルの授業があるんですね。この英語とかスペイン語の「一列」「二列」って何ですか?
取り扱う内容によって、一列は教養英語、二列はアカデミック・ディスカッションとかライティングとかに分かれてるんです。先生も違う先生が担当されます。なんで「列」なのか私にも分からないです(笑)。「スペイン語演習」は会話の授業で、ネイティブスピーカーの先生でした。
語学の授業だけで週6コマですか! そして必修科目にもう「法」や「政治」があるんですね?
そうですね。文一の学生は1年生から法と政治が必修になります。最初なので、具対的な法や政治を扱うのではなくて、内容は導入的だったり基礎理論的なものです。どちらも自分では初めて触れる世界だったのでとても新鮮でした。

「情報」というのは?
コンピュータルームでの実習なんですけど、情報社会における基礎素養を身につける、みたいな目的のものです。
授業では、いわゆるネットリテラシーとかセキュリティ論とかを学んで、ときどき簡単なプログラムを書いてみたりしました。
私はプログラム音痴なので、プログラムの演習のときには同クラの強そうな人の横に座って手取り足取り教えてもらってました(笑)。
この「ラテンアメリカ 異文化と出会う」という授業はラテンアメリカ文学がお好きということで取られたんですね?
そうですそうです。この授業はオムニバス形式で、文学だけでなくて、現地のいろいろな史料や写真を見ながら、ラテンアメリカ諸国の文化や歴史や芸術といった、毎回違った面を見ていくんです。
学期末は自由な主題でレポートを出すんですが、私は「チェ・ゲバラと広島」について書きました。
えっ、それは面白そうですね! どういう切り口なんですか?
ゲバラは被爆地だった広島を訪問したことがあるんですよ。原爆慰霊碑に献花をしてくれて。当時、広島から奥さんに宛てて出したハガキも残ってるんです。
うわー! それはぜひ読んでみたいですねー! そしてそして、「ジェンダー論」とか「比較文化論」とかも面白そうですね!

いやあ、勉強になりました。「比較文化論」は、日本と外国における教科書を比較するんです。日本での英語の教科書を明治時代から戦前戦後まで見ていったんですけど、とても面白かったです。外国の教科書だって普通見る機会がないですよね?

同じくらいの学年でも国によって教える内容が違うし、その時代その時代での国の状況によっても書かれていることが変わってくるし。
この授業で「比較文化」という学問のジャンルに初めて触れて、興味をもちました。
それで、後で法学部に行ったときも、「比較法原論」という講義を履修したりしました。

「ジェンダー論」にもご興味をおもちなんですね?
最近、勉強したいジャンルだったので履修しました。大教室での授業ですけど、それでも立ち見が出るくらいの、駒場の大人気講義なんです。
東大の学部生の男女比は8:2くらいですけど、「ジェンダー論」の教室では半々くらいになっている印象です。
私たちの人生や生活の中で、当たり前だと思っていることは当たり前ではないのだということを問いかけてくださる、とても説得的で刺激的な講義でした。社会学にも心理学にも通じるものがあって興味が高まりました。いつかまた勉強の機会をもちたいと思っています。
なるほどなるほど……。えっこの「建築空間のデザイン&リサーチ」って??
これもオムニバスで、毎回違う先生がいらっしゃって、スライドを見ながらそれぞれのご専門の話をしてくださるんです。建築物を見るのが好きなので取ってみました。
毎回の授業の終わりに各自リアクションペーパー(その回の授業の感想や質問などを書くB6版サイズ程度の用紙)を書いて出す決まりになってました。
感想なんかを書けばよいので、ミニテストという趣旨のものではなかったはずなんですが、なぜかある先生の回で、「今日の授業で述べた3つの点について書きなさい」みたいなお題がいきなり出てざわつきました。えっいきなり聞かれてもって(笑)。私もお話をのほほんと聞いてただけなので、3つと言われてもまったく思い出せなくて。
ピンチじゃないですか(笑)。
大ピンチです。周りを見てもみんな困惑していて。そしたら、隣に座っていた友だちが席の離れたところに座っていた複数の友だちとLINEか何かで連絡を取りあって、ひとつでも覚えている人から答えを集めて、最終的に3つの答えを揃えたんです。それを共有してもらって危機を脱しました(笑)。要するに全員がその答えを書いたということになるんですけどね(笑)。
三人よれば文殊の知恵?(笑) 東大生らしいピンチの脱し方ですね!(笑)
これ、テストじゃないので不正とかじゃないですよ! みんなで相談しあって、力を合わせて目の前の問題を解決したということです(笑)。
すばらしいです(笑)。この「基礎演習」っていうのは何なんですか?

これも必修科目です。私たちのクラスは野矢茂樹先生に教えていただきました。クラスによって授業内容が全然違ったみたいです。
野矢先生クラスは論理トレーニングの授業だったんですが、本や新聞の抜粋を素材にして、文章の論理構造を吟味していくという内容です。
毎回、課題として何か文章を出されるんですが、一見もっともなことを述べているように見えるその文章の中の誤謬を指摘するレポートを書くんです。
これはあら探しが目的ではなくて、論理的に分析して、何がどうおかしいのかを論理的に言語化できるというスキルを身につけるための練習なんです。課題文を元に、クラスで議論したりもします。

野矢先生の「基礎演習」は、駒場で受けた授業でもっとも衝撃を受けた授業のひとつでした。
私たちの仕事は、主にセリフにはなりますけど、文章の意味を声で伝える仕事なので、この論理トレーニングで学んだテキストの読み方がすごく共通しているというか。演技者としては、自分が読んだり演じたりする文章の構造も意味も当然に分かってないといけないですよね。
野矢先生の授業は学問的な面白さももちろんありましたけど、声優として台本の読み方においても目を開かれましたし、普段の自分の物の見方や考え方、言葉の使い方にまで影響しています。

うわー、これは私たちも受けてみたい授業ですね!
これだけ授業を取られていて、お仕事との両立は大変だったんじゃないですか?
そもそも、仕事と両立というのではなくて、仕事はいつも優先にしていたんです。大学があるから仕事を休むというのは自分にとっては本末転倒になるので。オファーいただいた仕事はお断りしたことないんですよ。
たしかに、大学に通っていらっしゃることは公表されてない以上、お仕事先の方もご存知ではないですしね。
もし大学に行くことで声優業から離れるとか、大学との兼ね合いで仕事を控えているとか思われると、とても心外なんです。いやいや控えないよって(笑)。
控えてないのに勝手に控えていると思われてオファーされないと困りますよね。では声を大にして言っときましょう! 佐々木さんは仕事が最優先! だと(笑)。

自分の中では「両立」とか「二足のワラジ」とかいう感覚じゃないんです。本当に仕事以外で余裕のある時間に大学に行っていたので。
ただ、同じ日に行ったり来たりはよくありました。朝の仕事に行って昼は大学に行って夜はまた別の仕事に行くとか、朝大学に行って昼は抜けて仕事に行って夕方また戻って授業に出るとか。
授業に30分だけ出てから仕事に行くとか、仕事の後で大学に戻って最後の15分だけでも出席するとか。

夜はリハーサルがあったり打ち合わせがあったりもしますけど、大学を出る前に図書館に寄って課題をできるだけ進めておいてから仕事に行って、で、帰宅してから課題の残りをしたりと、けっこう時間のやりくりはしていました。
肉体的にはちょっと大変だったと思いますけど、大学に入った以上はできる限り行きたい、と思って。

ちょっとじゃなくてすごく大変だったのでは! お仕事の時間はまちまちでしょうし、課題も試験もあるでしょうし……。
生活サイクルというか、日常がずいぶん変わったのではないですか?
そうですね、劇的に変わりました。変わったというか、シンプルになったというのか。生活が、「仕事と大学と勉強、以上」みたいになりました(笑)。他のことにはほとんど時間を使わないというか使えなくなりましたね。
そうなりますよね。でも、趣味や遊びの時間も息抜きとして必要じゃないですか?
たぶん、私の場合は、大学の講義を受けたり勉強したりすることがある種の「趣味」なんでしょうね。
しゅ、しゅ……!

ああ、きっと変な人ですよね、分かります(笑)。趣味で大学に来るなんて不真面目だ、と不快になられる方もいらっしゃるかもしれません。
でも、趣味は息抜き、とは思わないんです。仕事も趣味も全力でやるから面白いし、ずっと好きでいられるんじゃないかと思うんです。

でも映画を観たり美術館に行ったりはしてましたよ。たしかに、宴席に参加する頻度はすごく減りましたけど。息抜きも適度にしてましたし、本を1ページも読まずにごろごろ自堕落な休日を過ごすこともありましたし。

本当ですか? ちょっと安心します(笑)。仕事も趣味もどちらも手を抜かずに取り組まれている、佐々木さんはきっと、それをごく自然なこととして考えていらっしゃるんでしょうね。

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ランチタイムは芝生で
じゃあ次に、クラスのことを教えていただけますか?
はい。駒場のクラスは主に必修の語学を一緒に受ける単位としてのクラスで、語学の授業はほとんど毎日のようにあったので、同クラの人とはだいたい会えてました。
仕事関連でキャンパスを出たり入ったりとバタバタしていることが多かったので、彼らとツルんで動くような機会はあまりなかったですけど、できることならもっと密に付き合えればよかったなと思います。
もしかしたらクラスの方たちも、佐々木さんに話しかけたくても、大人の方に何をどう話しかけたらいいのか、みたいに遠慮されていたのかもしれないですよね。
でも同クラは皆さんすごく優しく接してくださって、とても感じのいい人たちだったんです。最初の頃、自分は全然大学のことが分からないし、当然学内に知り合いもいないし、で心細かったりしましたけど、履修登録のコツとか教科書の買い方とか試験情報とか、いろいろ親切に教えてくださったりして、たくさん助けてもらいました。


法学部の講義を受けた駒場900番講堂

その時、佐々木さんが声優さんだと皆さんはご存知でした?
いえ、最初の頃はまだご存知じゃなかったと思います。だからきっと、社会人と言ってるけど何の仕事をしてるのか分からない怪しいおじさん、またはじいさん、みたいに見えたかも(笑)。
でも、皆さんいつもにこやかで、気さくに声をかけてくれたりして嬉しかったです。昼休みに、佐々木さんもよかったら一緒に食べましょうと誘ってくれたり。
ランチタイムは学食が混み混みで入れないくらいになるんですが、うちのクラスはいつも芝生にピクニックシートを広げて、お弁当やらパンやら学食からテイクアウトしてきたものやらを食べながら、皆んなでわいわいランチしてました。
芝生にピクニックシートでランチする東大生たち! 想像するとすごくかわいいです! そしてその中に佐々木さん!

一人がピクニックシート係になって、毎日持ってきて持って帰ってくれるんです(笑)。本当にいいクラスだったなあ。駒場は短い期間でしたが、彼らと一緒にいられて楽しかったです。

……そういえば、後日談があるんです。私の仕事を知ってくれていたことについて。

先ほどおっしゃった、佐々木さんが声優だと分かった東大生の方たちが、ネットを見ても佐々木さんのプロフィールにその記載がなかったことから、公表してないんだと察して黙っていてくださっていたというお話ですね?

はい。特に同クラの多くは、わりと早くから私が声優だと分かったそうなんです。私の方は、彼らに自分の身分を話していないことにずっと気がとがめていたというのに(笑)。

これはつい先日、卒業後に聞いたんですが、ある人は幽白、ある人はさくら、ある人はテニプリ、私の出演作品を子どもの頃に何度も観ていた、大好きだった、佐々木さんには言わなかったけど、とおっしゃっていて、驚きましたし感動しました。
※「幽☆遊☆白書」幽助、「カードキャプターさくら」エリオル、「テニスの王子様」亜久津、を演じています。

うわあ……。クラスメイトの皆さん、そんなに佐々木さんを知っていても、一切口外しなかったんですね!

同クラ以外にも何人か、分かった方がいらっしゃいました。ゲームやってましたとかアニメ観てましたとか、授業の後でコソッと話しかけてくださったこともありました。でもその方たちも、普通の学生でいたいという私の気持ちをとてもよく理解してくださいました。

その後に法学部に入ってからも、お話ししたことのない方で私を知っていた方々も何人もいらっしゃったようで、皆さんに気を遣わせてしまって申し訳なかったですが、おかげで大学生活を存分に味わうことができて、とても感謝しています。

本当にすばらしいですね! 私からもありがとうって言いたいぐらいです!(笑)

クラスの外にも同学年の友人ができて、その人たちとは今もたまに会って食事したり近況報告し合ったりしてるんです。
一番仲のよい友人は、クラスは別でしたけど、同じ文一からの法学部進学で、法学の勉強のアドバイスをくれたり答案の書き方を教えてくれたり、1年生のときから卒業までずっとお世話になりました。普通に食事をしたり飲みに行ったりもしょっちゅうして。

勉強の話だけでなく、文学や映画や音楽や絵画の話でも、ヨーロッパ芸術の話でも日本の古典の話でも、過去の偉人の話でも現代の俗人の話でも、何でも話せる相手なんです。
その方は東大在学中に海外留学された時期があったんですが、そこに遊びに行って大学や寮や町を案内してもらったりしたこともありました。

すごくいいお付き合いをされてますね! それってやっぱり東大に行かなければ絶対に出会わなかった人ですよね。
そうですね。まず一生出会うことがなかったんじゃないかな。
同学年だった人たちは、今は法曹や官庁や国際機関、銀行や出版社やマスコミ系にいらっしゃいます。それぞれに世界が違うので、お話を聞くのがとても楽しいんです。
佐々木さんにとっても学生さんたちにとっても、とても運命的な出会いだったのかもしれませんね。

そうですね。ご縁ですよね。歳は親子ぐらい違いますけど、全然それを感じないんです。彼らは本当に優秀で精神年齢も高いので。私が歳より幼稚とも言えますけど(笑)。貴重な友人たちです。

そういえば、私が朗読ライブの公演をしたときに観に来てくださった方もいました。
こっちは、「同クラに舞台を観てもらうなんて」で、あっちは「同クラの舞台を観るなんて」みたいに、たぶんお互いに不思議な気持ちになっていました(笑)。
※朗読ライブ「きのう何食べた?」(よしながふみ原作/講談社)で企画制作・プロデュース・演出・主演(筧史朗 役)を務めました。

素敵ですね! そういえば、佐々木さんが演じられたシロさん(筧史朗)は弁護士でしたね!

長く声優の業界にいて思うのは、私たちの仕事の魅力のひとつに、いろんな人と出会えていろんな人と仕事を一緒にできる、ものづくりができるということがあるんですけど、大学に行ったことでさらにそれが広がったというか、出会える人の世界が広がったので、これは本当に嬉しいんです。

ちょっと短絡的な考えかもしれないですけど、こうしていろいろな人の人生と出会うことで、自分の演技の根底にある部分が、ポジティブな意味で何らかの影響を受けるんじゃないかと思うんですよね。

絶対そうだと思います。
アニメとかでも、勇者とか超能力者ばかりじゃなくて、普通に現実の人を演じることも多いわけですよね。学生だったり、普通のおじさんだったり。
違う人の人生に触れると、きっと演技にもその分さらに深みが出ますよね。
そうなるといいですよね。ただ、経験したことのないことは演じられない、とか、実体験をした役者の方がしてない役者よりも演技に深みが出る、とは必ずしも思ってないんです。
だけど、自分同士、つまり「そうでない自分」と「そうである自分」とは比較できるんですよね。
だから、たとえば大学生を演じる場合だったら、大学生を経験したことがない自分と比べると、その経験をしたことのある自分の方が絶対によく分かった上で演じられると思います。
漫画家さんでも、大学に行ったことがないからキャンパスライフの雰囲気が分からないとか、OLをしたことがないから上司との関係や会社の中の風景が分からないって悩まれている方はすごくいらっしゃいます。
ドラマを参考にして、学生ってこんな感じかな、OLってこんな感じかな、って描くと、ちょっと真似ごとっぽい感じになってしまうし、難しいと。
ですから、佐々木さんの大学生としてのご経験は、絶対に声優さんのお仕事にもすごくプラスになったんじゃないでしょうか!
うんすごい、私は今どんな方にお話を伺っているのか、不思議な気分になります(笑)。

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五月祭で模擬店に参加


駒場正門前の銀杏並木

学園祭は参加されましたか? クラスで何かしたんでしょうか?
はい。本郷キャンパスで、5月に五月祭というのがありまして、だから新入生は入学してすぐなんですよね。クラスごととかサークルごとに模擬店を出すんです。私たちのクラスは牛串を売りました。
大学に入って同じクラスになって1ヶ月でもう団結して店を出す、すごいですよね。私もクラスの一員として関わりたくて、牛串をひっくり返す係をやりました(笑)。
ひっくり返す係(笑)。ずいぶんと細かい分担なんですね(笑)。

焼くのは別の人で、横からおそるおそるひっくり返してました。役立たず気味なのが分かりますよね(笑)。こういうのやるの初めてだったんで、すごく面白かったです。
あ、でも売り子もやりましたよ! 大人のお客さんにお愛想を言って一本多く買っていただいたり頑張りました(笑)。みんなともっと親しくなれたりもして。

時間帯でシフトを決めていたので、それ以外の時間は他の展示やショーや模擬店を見に行ったりして満喫しました。友人も何名か遊びに来てくれたので、全員にうちの牛串を買わせましたね(笑)。
自分でも合間合間に牛串を買って食べて、売上げにも少し貢献したと思います(笑)。

(ここでその友人が発言)牛串のお店が多くて、食べ比べたんですけど、佐々木さんのクラスの牛串がいちばん美味しかったんですよ!
正直、若い人たちの中に入っているのは浮いてるんじゃないかと心配だったんですけど、ブースに入っている姿が、すごく自然にクラスメイトの皆さんと混ざっていて、声優・佐々木望ではなくて同世代の普通の学生さんがそこにいるように見えて、安心しました。可笑しいなって感じもしましたけど(笑)。楽しそうでしたよね!
なるほど! 本当に溶け込んでらしたんですね!
11月にある駒場祭でもクラスでお店を出しました。
私はやっぱりほとんど役立たずでしたが、せめて何かお役に、と思って、「買って買ってー」と売り込みに歩き回ってました(笑)。
声優・佐々木望さんがその声で模擬店の売り込みを!! 幽助なんでしょうか、鉄雄くんなんでしょうか、ユリアンなんでしょうか、なんかすごい! いったいどの声で?? あ、すみません(笑)。でも楽しそうですね!
※「AKIRA」鉄雄、「銀河英雄伝説」ユリアン、を演じています。
本当に楽しかったです。懐かしいです。

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魔の体力テスト
楽しいお話を伺ってきましたが、逆に大変だった授業とかはありましたか?
なんといっても駒場で一番しんどかったのが、「スポ身」という体育の授業でした。正式名称は「身体運動・健康科学実習」というんですけど、みんな「スポ身」って呼んでました。たぶん多くの東大生はスポ身の正式名称が何なのか知らないまま卒業していきます(笑)。
※おおもとは「スポーツ・身体運動」の略称のようです。
必修だったんですよね?
はい、必修なんです。一年生のときだけですけどね。必修だから絶対に取らなくてはいけなくて、体育だから絶対に出席しなければいけなくて、どうあっても逃れられないという(笑)。
いろいろな種目の中から選べるんですけど、サッカーやバスケみたいな集団競技はとてもとても。そんな18歳19歳の人たちと一緒にボールを追いかけまくるなんて無理無理無理無理(笑)。
だから、基本的にはマイペースでできるウエイトトレーニング的なものやストレッチ的なものを選びました。
ああ、それなら無理なく体も鍛えられていいですね!


台本と運動靴とジャージ

いやねえ、でもやっぱり気が重くて。スポ身の授業は水曜日だったんですけど、水曜日だけは大学に行きたくなくて(笑)。
しかも、運動靴とジャージ的な服も持っていかないといけなくて荷物になるし(笑)。前後に仕事があると、台本と運動靴とジャージを持って仕事場に行くわけですよ?(笑) カバンはもこもこになって変だし、「何が入ってるの?」と聞かれたこともありますけど、「運動靴とジャージ。体育の授業」とか答えられないですから(笑)。

授業自体はグループでまったり運動する感じでそれほどキツくもなくて、だいたい出席して課題をすれば単位はいただけるので、そのあたりは心配なかったんですけどね。

あれ、じゃあ何が大変だったんですか?
スポ身の初回の授業だったんですけど、体力テストがあったんです。大きな体育館に集められて、反復横跳びや踏み台昇降なんかをして脈拍の推移なんかの記録をつけるんですけど。
踏み台昇降! なんか懐かしい言葉です!(笑)

そう、たいていの大人には懐かしいんです(笑)。でも大学生はやるんです(笑)。しかも踏み台昇降って3分間ですよ!
当時は運動してなかった時期だったので、始めて3秒くらいでもうしんどいんです(笑)。3分間が永遠に終わらないように感じました(笑)。
まわりの皆さん18歳19歳ですよ、私その親くらいの歳ですよ、3分間の間にいろいろなことが走馬灯のように頭をよぎりました(笑)。

で、やっと終わったら今度は脈拍を1分おきに測って、心拍数の回復の度合いをみるんです。
これがもう、他の人はぐんぐん元の脈拍に戻っていくのに、私の脈拍は延々とばくばくでまったく収まらなくて(笑)。瞳孔もきっと開いててぜえはあ言ってて、そしたら先生が「大丈夫?」と心配して側に来てくださったんです。
なんかすごく恥ずかしくて、大丈夫です大丈夫ですって言ったんですけど、本当にこのままポックリいってしまうかも、まだ入学して1週間なのに、ああ自分が人生で最後にやったことは踏み台昇降になるのか……、人からは「佐々木望さんって踏み台昇降で……」「ほんとにお気の毒ね、踏み台昇降でなんて……」「踏み台昇降さえなかったらねえ……」なんて言われるのか、と本気で焦りました(笑)。

いや、それは(笑)……。18歳19歳の学生さんと同じにはいかないですよ(笑)。
その先生は、石井直方先生という東大の大学院の教授で、東大ご在学中からボディービルでもご活躍されてミスター日本にもなられた方です。石井先生のスポ身では筋トレを教えていただきました。
研究者でいらっしゃいながら、『スロトレ』とか一般向けの本もたくさん出されていらっしゃいます。すごく優しい先生でした。私たちは「神」と呼んでました。
いや、呼んではないですね、勝手に言ってたんですけど(笑)。
東大の先生はメディアでお見かけすることも多いですし、当然日本トップの研究者でもいらっしゃいますよね。そういう先生方に普通に授業を担当していただけるなんて、やっぱり東大すごいと思います。
名実ともに日本の学問を牽引する先生方が多数いらっしゃいますしね。本当にすばらしい学習環境だと思います。
キャンパスライフのお話すごく面白いです! まだまだ駒場時代のことを聞かせてください!

次回、佐々木さんが法学部進学を決めたきっかけとは?

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