Vol.19 法学徒の進撃 〜2019年春、本郷〜
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筆記具を使う難しさ
- 時間の制約とか、お荷物を持っての移動の大変さとか、お疲れの中で勉強時間を作ることなど、社会人の方が実際に勉強を続けていかれるのは本当にご苦労の多いことだと思います。
他に何か、大変だったことはありましたか?
- そうですね……。
東大に入る前ですけど、受験勉強をしている時期に難儀したのは、科目自体の勉強というよりは筆記用具の扱い方でした。
- えっ、それは鉛筆とか消しゴムということですか?
-
そうなんです、まさに鉛筆と消しゴム!
センター試験はマークシートなので、シャープペンシルでなくて鉛筆で受けるように指定されてますよね?
で、まず鉛筆を持ってなかったので買うところから始まって(笑)。
- たしかに、声優さんのお仕事では、文字をたくさん書かれるイメージはあまりないかもしれないですね。
鉛筆よりシャープペンシルの方が、使っている方が多そうですし。
-
そうなんですよね。
原稿はPCとかで書きますし。
鉛筆はもちろん、シャープペンシルやボールペンなんかでも、手書きで字を書く機会が普段あまりなかったんです。
書類に住所と名前を書くとか、台本をチェックするときくらいしか。
だから、受験勉強を始めた最初の頃は力の加減がつかめなくて、書くたびに鉛筆の芯をボキボキボキボキって折りまくって、ちっとも書き進められなかったです(笑)。
折れた芯が粉々になって散らばって、それを掌でこすってしまって紙が汚くなったりとか(笑)。
模試なんかでも、よく答案用紙を汚してました。
- 普段お使いにならないと、いざというときにやりにくいですよね。
-
消しゴムもそうで、普段使わない、持ってない、買うところからって。
そして消すときの力加減がまたわからなくて、消したい箇所がうまく消せないとか、消さなくていい周りの部分まで大幅に消してしまうとかしょっちゅうで。
「消し跡が残らない消しゴム」みたいなものを買っても、なんか私が消すと黒ずんで汚くなるんです(笑)。
ひどいときには、うまく消えないからってゴシゴシやってたら、力が余って答案用紙をビリビリビリって真っぷたつに割いてしまったり(笑)。
芯は折れるし紙は破れるし(笑)。
周りの受験生がみんな普通に使っている鉛筆と消しゴムを、自分は適切に使えないという。
あれですね、いわゆる、自分の両手をまじまじと見て「これが……俺の……力……?」って呟くやつです(笑)。
あとは、試験中に消しゴムが床に落ちてしまったり。
どんどん転がって転がって、遠くの方の席の受験生の足下まで行ってしまってあああーって(笑)。
試験中なので立ち上がって取りに行けないんです。
立方体の消しゴムで、普段なら落としてもぼたっとその場に落ちるだけなのに、どうして試験中に落としたときに限って彼方の方にどんどん転がっていくのか、今日だけ生きてるんかお前って(笑)。
- 「マーフィーの法則」ですね(笑)。
-
最初はこれ、ショックでしたね。
受験勉強以前に、まず筆記具の使い方から学ぶのか!って(笑)。
少しずつ使い方には慣れてきましたけど、安心のために、試験を受けるときは、鉛筆は1科目ごとに5本くらい、消しゴムは3個くらい用意してました。
折れても転がってもいいように(笑)。
しかも、鉛筆と消しゴムそれぞれに、小さい輪ゴムを巻いてました。
転がり対策です(笑)。
やっていくと、知恵はだんだんつくものですね(笑)。
- すごい工夫ですね!
東大に入られてからも、鉛筆をお使いでしたか?
-
大学では、1、2年生のときはシャープペンシルを使ってる方が周りに多かったです。
私もそうでした。
駒場の2年間でやっとシャープペンシルと消しゴムの取り扱いに習熟しました(笑)。
ところが、3年生になって本郷に進学して法学部に入ると、また新たな、ちょっとした困難があったんです。
- 筆記具で、ですか??
-
普段の勉強でなくて、試験でなんですけどね。
東大法学部の試験は、代々、ボールペンまたは万年筆を使って黒いインクで書く決まりになってるんです。
昔は、学生が座る教室の机に、万年筆用のインクボトルを置くくぼみがあったそうです。
なんか面白いですよね。
でも今は時代も変わって、ボールペンで書く学生の方が多い様子です。
ボールペンは、鉛筆と違って普段から使ってますけど、長い文章をきれいにとなると、やっぱり書き慣れてないんですよね。
- でも試験では必ずボールペンか万年筆を使わないといけないんですよね?
-
ええ。
法学部に入って最初の試験のときにボールペンを使ったんですけど、ボールペンも万年筆も、書き間違えたときに厄介なんですよね。
当然、消しゴムは役に立ちませんから、間違えたところはぐじゃぐじゃ線を引いたり塗りつぶしたりしていると、しまいには黒い丸とか四角とか線とかがあちこちにある汚い見た目の答案になってしまうんです。
しかも、時間が足りなくて焦って書いたりするので、字も超絶に汚くて、これを提出するのかと本当に萎えました(笑)。
こんな汚い答案を読まないといけない先生も気の毒だなって(笑)。
国立大学の学生が作成した答案って、公文書にあたるんだろうかと考えたりもしました。
そうだとしたら、公文書をこんなに汚く作成してしまった、まずいんじゃないかとか(笑)。
いや、あたらないと思いますけどね(笑)。
- (ここでスタッフが発言)佐々木さんは万年筆がお好きでいらっしゃいますけど、万年筆では書かれなかったんですか?
最近メインで愛用している筆記具のラインナップ
-
万年筆は好きでたくさん持ってるんですけど、試験本番で使うのはボールペンの方が多かったかもしれません。
特に法律科目の試験では、私はいつも時間が足りなくて、後半になるほど手にすごく力が入ってしまうんです。
万年筆は力を入れて書くものじゃないのに、力が入って手首が固くなると、うまく書けなくなってしまうんですよね。
それと、答案用紙が縦書きの科目もあって、前の行のインクが乾かないうちに手の小指側でこすってしまって、字が汚れて読めなくなるんです。
こうならないうまい書き方があるんでしょうかね。
- 縦書きの科目もあるんですね?
- ええ、少ないですけど。
憲法とか、日本近代法史とかは縦でした。
昔は全部縦書きだったのかもしれませんね。
- 縦書きで万年筆だと、こすってしまいますよね、つい。
-
そうなんです。
でも、普段の勉強ではよく万年筆を使ってました。
気に入った筆記具を使うと気分が上がりますよね!
インクもいろいろな色を使って、書くのが楽しいので勉強も多少ははかどったような(笑)。
いつかまた何かの試験を受ける機会があれば、そのときは万年筆を使って書きたいですね。
ボールペンも、試験用にいろいろ試しました。
いろいろなメーカーのいろいろな種類が出てますよね。
法学部生の中でも、法律の試験でどのペンがさらさら書きやすいかとか、どれが疲れにくいかとか、情報交換したりしてました。
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日本の夏、ドイツの夏
- この4年生夏学期ですけど、履修はどのような科目でしたか?
- 必修では商法第1部、そして選択科目はドイツ法を履修しました。
ドイツ法は選択必修という科目で、英米法、フランス法、ドイツ法の中から最低ひとつ取らないといけないんです。
私はすでに英米法の単位を取っていたので、卒業要件的にはドイツ法を取る必要はなかったんですけど、成績優秀者制度の要件上、基礎法のひとつとして必要だったので履修しました。
※選択必修科目について、現行の制度では若干変更されています。
- 着々と成績優秀者に向かわれていますね!
- でも、それだけじゃなくて、そもそも面白かったんです、ドイツ法。
実は、前年にもその前の年度にも、履修はしなかったですがドイツ法の講義は聴講してました。
だから、今回がドイツ法3回目の受講だったんです。
- 3回? ドイツ法大好きじゃないですか!(笑)
- 海老原明夫先生のドイツ法は、毎回いろいろな文献を読みながら先生の解説を聴くというスタイルでした。
もともとドイツ法自体の知識は何もなくて、ただドイツが好きでドイツ語に興味があって、だからドイツ法の世界ものぞいてみたい、みたいな単純な動機で受けたんですけど、毎回面白いなあと思って伺ってました。
選択科目なので受講者が多くなくて、教室も小教室だったので、先生のお話をすごく近くに、個人授業のように伺える感じで、それがまたよかったです。
夏には窓の外からセミの声なんかが聞こえてきて、先生の解説と混じって(笑)。
この頃、「カルラ舞う!」のイベントに巨椋冬樹役として出演、キャラクターソングもライブで披露
- 夏、ですね(笑)。素敵です。
-
ええ、素敵な時間でした。
はたしてこれは日本の夏なのか、ドイツの夏なのか(笑)。
夏のドイツに行ったことがあるんですが、そのときのドイツの空気なんかを思い出しながら講義を聴いたりもしてました。
長く在学していると、同じ先生の同じ講義を複数回聴けるので、これ贅沢だなあと思います。
試験を受けられるのは一回だけなんですけどね。
ドイツ法の他に、租税法や日本近代法史もそうやって毎年聴講してました。
- 聴講は、大学外部の人もできるのでしょうか?
- 外部の人はできないと思います。
私は学生として履修登録していたので。
東大には素晴らしい講義がたくさんあるので、聴きたい方はぜひ入学を!(笑)
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飛行機で学ぶ商法
- 商法は卒業に必須の科目ということですが、いかがでしたか?
-
商法は、3年生夏学期の配当科目なんですけど、最初から苦手意識が強くて、それでこんなに最後の最後まで残してしまいました。
3年生のときから講義も受けてなくて、そもそも勉強を初めていないので、苦手意識以前の思い込みなんですけどね。
刑法とか民法は最初から面白そうだと思えたのに、商法はもう、名前からして興味がもてなくて。
他の科目なら、わりと積極的にいろいろのぞきに行ってたんですけど、商法系は取っつきづらい感じがして、初回の講義に出てみても100%ちんぷんかんぷんだったりして、ああ自分には向いてない科目なんだなと思ってました。
- やっぱり一般的な感覚でも、商法ってビジネスの法律なのかなと思ってしまって、難しいようなイメージはありますよね。
- 他の科目以上に理解困難な感じがして、これは試験を受けても「可」さえ取れないだろうと思って、最後の年に回そうと早い段階から決めてました。
- それも、戦略的先延ばしですね!
-
とも言えますけど……。
商法に関しては、戦略というよりは、手も足も出ないからいたしかたない、という実情でした。
だけど、この夏学期にはもう、どうしても取らないといけないわけですから、覚悟を決めて勉強に着手しました。
- その、苦手な、と言いますか、苦手意識のある科目は、どうやって勉強しましたか?
他の科目と違う対策などを立てられたのでしょうか?
-
そうなんです、違うやり方をしました。
まず、スケジュール的なところから考えて。
商法の講義が始まるのが4月頭で、学期末試験が7月中旬なので、時間は約3か月です。
その間に、仕事の方は、外国のアニメコンベンションに呼んでいただいてたり、他にももう収録のスケジュールが決まっている作品がいくつもあったりしたので、それまでの他の科目のようにじっくりのんびりマイペースでやっていくと、試験までに間に合わないおそれがありました。
特に、商法はそれまで講義に出たり教科書を読んだりしたことがほとんどなくて、まっさらなところから始めないといけなかったので。
絶対に落とせない試験までにあと3か月。
講義にはできる限り出席して頑張って聴くようにしても、講義で全範囲が終わるのは7月に入ってからになるので、講義のペースに合わせて勉強してたんじゃ試験に間に合わない。
だから、自分の勉強のやり方としては変則的になりますけど、最初から問題集を始めました。
- 問題集を、教科書よりも前に、ということですか?
- そうですね。教科書は通読をしないで、問題集の解説を読んでもわからない箇所や、派生的事項を知りたいときなんかに限って見るようにしました。
解説の丁寧な問題集を一冊選んで、それを読んでいったんです。
- 問題集を読むのですね?
- ええ。最初は何もわからないので解けっこないですからね。
基礎知識もないので、問題を考える時間ももったいないんです。
だから、ひたすら読みました。問題集の答えと解説を。
- 読みながら暗記していかれたのでしょうか?
-
いえ、暗記しようとはしてなかったです。
時間がなかったので、逆に、覚える作業に頭を使わないようにしました。
覚えようとして覚えるという作業をしなかったというか。
その作業時間を、読むことに使いたかったんです。
だから、覚えようとする代わりに、解答と解説を何度も読みました。
でも、ただ読むのではなくて、出てきた条文は必ず六法で引いて、条文の文言に目を通してました。
そのうち、あれ、これはさっきも引いたなとか、一昨日見たやつだとか、そうやって何度も同じ条文を目にすることになってきます。
そういうのが重要な条文なんですよね。
そうやっていくうちに、嫌でも頭に入ってしまいます。ざっくりとですが。
なんとなく全容が頭に入ってきたら、問題集を読むことは続けながら、それとは別に何かトピックを決めて、複数の参考書のそのトピックのところを読みふけるんです。
すると、そのトピックについて詳しくなるし、一方で問題集を繰り返すことで網羅的に理解は定着するし、二重に効果がありました。
- 科目によって取り組み方を変えていらっしゃるんですね。
面白いです!
-
イランの友だちに再会したお話をしましたけど、そのヒューストンのコンベンションがこの年の6月だったんです。
※インタビューVol.10 参照
翌月が試験だったので、そのときも商法の問題集と六法と参考書をどさどさ持って行きました(笑)。
機内ではひたすら商法を読んでました。
映画とかは観ずに。あ、せっかくなのでワインは飲みながら(笑)。
長時間のフライトでしたけど、商法を勉強して一眠りしたらあっという間にヒューストンでした。
そこからは、コンベンションで外国のファンの方々とお話ししたりして、すごく楽しい数日間でした。
英語でいろいろな方と話せて、また英語の勉強もやり直さなければ!と思いました。
滞在中は仕事上やるべきことも多くて、さすがに勉強はまったくしませんでしたけど、帰りの機内ではまた商法を(笑)。
アメリカのアニメコンベンション「Anime Matsuri 2019」会場
コンベンションのサイン会では「幽☆遊☆白書」「AKIRA」「MONSTER」「カードキャプターさくら」などが大人気
フリータイムにアメリカの名門私立大学のライス大学を見学
- すごい密度と充実度!
- 商法の先生は神作裕之先生という方だったんですけど、最終回の講義が終わった後、挨拶に伺ったら、「いつも前に座って、本当に熱心に聴いてくださいましたね」とにこやかにおっしゃってくださって、すごく感動しました。
ようし、試験までいっそうがんばろうと気合が入りました!
- それは嬉しいですね!
試験直前期のお勉強はどんな感じでした?
-
直前期もやったことは同じで、やっぱりひたすら解答と解説と六法と参考書を読むことでした。
書くことはほとんどしなかったです。
繰り返して読みながら、ひとつひとつの事項を意識的に頭の中に整理収納していった感じです。
1年生から友だちだった法学部の方が、もうこの時には卒業されてましたけど、私の勉強をいつも気にかけてくださって、何かあったら言ってね、勉強も見るよと言ってくれてたんです。
それで、商法の試験の直前に、一緒に過去問の分析をしてもらったり、試しに書いてみた答案にアドバイスをいただいたりしました。
- それは心強い!
- 試験では友人のアドバイスを守って落ち着いて丁寧な答案を書くようにして、勉強したことは書けるだけ書いたかなという感触でした。
3か月やれるだけの勉強をしたし、先生の講義もためになったし、これで悔いはないやと思ってました。
- それで……(緊張)……。
- ……(笑)。
ええ、それで、優上をいただきました。
- うわあ、おめでとうございます!!
-
いやびっくりですよ!
本当にびっくりで、そして本当に嬉しかったです。
不思議なものですよね。
科目の中で一番苦手意識が強くて、あんなに先延ばしにした商法で、いい結果が出るなんて。
先生は神でした(笑)。
- いやいや、それだけのお勉強をされたからですよ!
-
そして友人には本当に感謝です。
商法だけでなく、なにかと本当にお世話になってきました。
お互い卒業した今も、連絡を取り合って仲良くしていただいてます。
こういう出会いというか、人との縁も、東大に来たことで与えていただいた幸せですね。
(3回目の)4年生夏学期までの成果を見たい方はコチラ
次回、戦略的に、誠実に! 最終学期の取り組み! 8月24日(月)頃更新予定。