Vol.10 法学徒の手探り 〜2016年初頭、本郷〜
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法学部「履修の手引き」
- 佐々木(以下略) だいぶ本題からそれてしまいましたね。今どこにいるのかわからなくなりました(笑)。
-
3年生の冬学期になって、高齢者法やロシア・旧ソ連法を履修されて、というお話からロシア文学のお話になって、そこから、駒場時代に学ばれたロシア東欧や中国の農村のお話になって、プチ留学のご体験や翻訳や辞書のお話に広がって……(笑)。
それたお話もとても面白いのでいくらでもなさってください!
-
ありがとうございます(笑)。
そうでした。3年生の冬学期ですね(笑)。
履修したのは高齢者法、ロシア・旧ソ連法、憲法演習でした。
ここでそろそろいろいろ単位を取っていかないと、特に必修の負債をなんとかしないと、さすがにまずかろうと思い始めました。
なんせ、3年生の夏学期が終わった段階までに取れていた法学部の単位は、(卒業要件の)90単位中、18単位だったんですから!
※現在の制度では、卒業要件単位は80単位となっています。
- 普通は、というのも変ですが、他の学生さんはここまでで何単位くらい取られているものなのですか?
-
私のいた(当時の)第1類だと、3年夏学期終了までに取ることを想定されている科目は、政治学、憲法第1部、憲法第2部、民法第1部、民法第2部、民法基礎演習、刑法第1部、商法第1部、行政法第1部、英米法、ゼミ、でした。
※英米法は、「英米法・フランス法・ドイツ法から1科目(以上)選択」という準必修科目です。
これらは全部必修(または準必修)科目で、単位の合計は、
………………(計算中)………………
………………(計算中)………………
………………(計算中)………………
38単位?になりますかね。
※これらの科目のうち、憲法第2部、民法基礎演習、ゼミは2単位です。
- ここまでで佐々木さんが取られていた18単位というのは……?
-
選択科目も入れての18単位です。
この38単位の中では、刑法と民基礎と英米法の合計10単位しか取れていませんでした。
この後の3年冬学期の必修科目を含めて必修はトータルで50単位なんですけど、それだけだと卒業要件の90に満たないんです。
だから、なんにしてもあと40単位分は、いろいろ選択科目を取らないといけないんですね。
- なるほど。ということは皆さん、必修科目以外に選択科目も同時に取っていかれるわけですね?
-
そうなんです。
選択科目は、法律系だと夏学期には刑法第2部や民法第4部がありますし、他にも法制史とか国際法とか。消費者法や社会保障法みたいな特別な法とかも。
政治系や経済系の科目もたくさんあります。
だから、必修に加えて適宜いろいろ取っていくわけですね。
周りを見ていると、1学期に20から28単位くらい取る人が多かったように思います。
2年生の冬学期と3年生の夏学期を合わせて、多い人だと60単位近く取れてたりします。
もっと多い人もいましたし。
- とにかく、卒業までには必修の科目を全部取って、かつ全部で90単位以上にならないといけないということなんですね?
-
その通りです。
ちなみに、卒業要件は、「卒業までに」必修を含めて90単位(当時)ということなので、何年生で何を取ってもいいんです。
だから、私のように、2年生の配当科目を3年生や4年生になってから取ってもOKなんです。
とにかく卒業までに揃えられれば。
- そういうことですか! それなら学生さんは自分である程度自由に学習の計画を立てられていいですね。
-
そうですね、そこの自由度がわりとあったのは助かりました。
だから私も、どう勉強していいかわからなかった必修科目を後回しにして、必修でないけど単位の取れそうな法社会学とか会計学とかを取ってました。
それらを合わせて、法学部の科目で取れていたのがここまでで18単位でした。
でも、実はこの他に他学部の単位も10単位取ってたんです。
3年生夏学期までの成果を見たい方はコチラ
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「ロシア東欧表象文化論」は美術館での芸術鑑賞があった授業で、「専門英語」というのは中国の農村についてのコミュニティ・スタディの文献を英語で読む授業、「英語教授法・学習法概論」は英語の勉強法について熱いレポートをお書きになったという授業ですね。
※それぞれインタビューVol.7、Vol.8、Vol.4参照
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そうですね。そして「近代文学特殊講義」というのは柴田元幸先生の翻訳と購読の授業です。
※インタビューVol.9参照
- 「科学技術社会論II」というのも取られていたのですね?
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そうでした!
ロシア東欧や専門英語と同じく、これも(後期)教養学部の授業です。
これら他学部の科目は、法学部の卒業要件90単位の中に、12単位まで含めることができるんです(当時)。
なので、私の場合は(18+10=)28単位は3年生夏学期までの取得単位だったということです。
- ああ、それは安心ですね!
-
いやあ、それでも取れてる単位は他の多くの3年生よりはるかに少なかったですからね。
それに、第1類(当時の私法コース)の学生なのに、この時点までに実定法が刑法ひとつしか取れていないというのは、なかなか気が引けるものがありました。
※私法コースには法曹を目指す学生が多く、憲法・民法・刑法・行政法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法という実定法が必修科目に含まれています。
そういえば、私法コースはその後名前が変わって、今は「法律プロフェッション・コース」というんですね。
- 法律を職業に、というような意味なんでしょうか。
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でしょうね。
でも「プロフェッション」って言われても意味がわかりにくい気がします。
それに、見た目が長いし音声的にリズムもよくない(笑)。
「フェッ」のあたりが特になんかこう、力が抜けませんか? 「ふぇっ?」って(笑)。
個人的には、伝統がある「私法コース」という名前の方が毅然として重厚な感じがして好きでした。
いえすみません、いらんことを。法学部大好きです(笑)。
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不整脈とイランの友人
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何が必修で、全部で何単位必要で、他の学部の単位はいくつまでで……
というような決まりがいろいろあって、必ずしも学生の皆さんがすんなりと把握されているようなものではないのかなという印象です。
-
そう思います。私も、普通に2年間で法学部を終えるという路線からはみだして、在籍期間を規定いっぱいまで延長することにした以上、万が一にも卒業要件を勘違いかなんかして卒業できなかったら取り返しがつかなくなるので、法学部の規則を何度も何度も熟読してました。
おかげでかなり詳しくなりました。履修に迷ってる人がいたら教えてあげたいくらいです(笑)。
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教えてあげたいですね!(笑)
東大法学部で履修に迷われている方はぜひ佐々木さんに相談を!(笑)
-
でも、この頃は心配でしたね。科目を絞って少しずつ確実に取っていくという計画が。
うまくいけばいいですけど、どうなるかまだ見えてこなかったので。
3年生のときは不整脈になったりしました。
- 不整脈?! それは大学のことが原因でですか?
-
たぶんそうなんです。履修が心配で、というか、法学部規則を読み間違えていないか確信がもてなくて(笑)。
何かが心配で体調に出ることはそれまではあまりないタイプだったんですけどね。
不整脈も、それまでなったことがなかったので、おおこれが不整脈かと思って。
しばらくの間、毎朝脈を測ってみてたんですが、これは大学で学業がきちんと達成できるかという若者的な不安に基づく不整脈なのか、それともそれは関係なく、年寄りになったという表れの、年齢に基づく不整脈なのか、どっちなんだろうって、ちょっと新鮮に自分を観察してました(笑)。
- やっぱりどこかご学業のプレッシャーというか、真面目に考えていらっしゃる分、学生として全うする責任みたいなものを感じていらっしゃったのでは?
-
プレッシャーみたいなものはそこまでなかったと思うんですよね、本来は。
だって、好きで入った大学なので。
それに、卒業後の明確で具体的な目的が何かあって入ったというのとは違うので、仮に学業が思ったほどうまくいかなくても失うものはないというか。
学べたということ自体に意味があるので。
……と思ってはいたんですけど、やっぱり実際には、学生のひとりとして、大学のカリキュラムと規則に従って学業の成果を積み上げていかないと正規の達成として認められないわけですからね。
いくらマイペースでじっくり勉強しようと思っていても、どうしても適合させていかなければいけない部分がありますよね。
それに、好きで入ったんだから学べたこと自体に意味があるといっても、入った以上はやっぱり卒業までやり遂げたいじゃないですか。それも、やれるだけやったと思えるくらいに。
-
そう思えることがすごいと思います。
大人の方は、卒業して就職して、という普通の学生さんとは違うので、逆にいつでも途中で休学や退学ができますものね。
事情が変わったり気持ちが変わったりして、やっぱりやめようとか、やっぱり一回休みを入れようとか。
大人だからそういう選択肢は自由にあると思うのですが、佐々木さんは社会人としてそれまでと変わらずに声優さんとしての業務をされながら、さらに大学でもご学業という「業」を、他の学生さんと同じように普通にされようとしていらっしゃるので……。
-
それは、すごいというより、私の場合は事情も気持ちも変わらなかったということなんでしょうけどね。
気持ちはともかく、何年も大学にいたので、もしかしたらその間に何か自分や身辺の事情が変わる可能性もあったと思います。
支障なくなんとか最後まで通学できて卒業できたのは、人もそうですし環境もそうですし、いろいろなことに助けていただいたからなので、本当にありがたく思います。
- 不整脈は、その後は大丈夫でしたか?
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一時的なものだったので、その後の影響はないですよ! 検査もしましたし! ありがとうございます。
その頃、毎朝脈を測ってた頃ですね(笑)、横になって脈を測りながらイランの友人にメールしたことを思い出しました。
- イラン、の、ご友人??
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ええ。イラン人の友人です。
先ほどお話ししたボストンでのプチ留学のときに行ってた学校で知り合った人なんです。
※インタビューVol.9参照
もともとイランで専門職に就いてらした方なんですけど、私が帰国した後もアメリカに残って、アメリカの大学に行かれて、その後アメリカで仕事を始められて。
ときどきメールで近況報告しあってるんです。
- ご留学で知り合われて、国を超えてずっと交友を続けていらっしゃるなんて!
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その方からちょうどメールが来たんです。
今、大学でものすごいハードな勉強をしてるんだって。
映画や本からの知識ですけど、アメリカの大学のハードな勉強というと、本当に本当にハードだと窺い知れるんですよね。肉体的にも精神的にも。
「ペーパー・チェイス」の映画でも、学生が毎日勉強に追われて、試験のプレッシャーはすさまじくて、病んでドロップアウトする人もいて。
※インタビューVol.4参照
しかも、外国人は第一言語でない英語で学んでるわけですよね。
-
アメリカ人の学生さんと一緒に学ばれているんですよね?
それは英語だけで相当ハンデになりますね。
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それは大変だね、尊敬するよ、グッドラックって、脈を測りながら返信しました(笑)。
私も日本の大学で法を学んでるんだよ、なかなかハードだよ、お互い頑張ろうって。
- 素敵ですね!
- で、去年(2019年)、アニメのコンベンションに出演するためにテキサス(州)のヒューストンに行ったんですけど、そのときに再会できたんです!
ヒューストンでの巨大コンベンション「Anime Matsuri」でトークショーやサイン会に出演
- うわあ! ヒューストンにいらしたんですか、その方?
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そうなんです。10年近くぶりに会えました。感動しましたよ、本当に!
アメリカで元気に活躍されていて嬉しかったですね。
その方は、知り合った当時よりもはるかに英語がうまくなっていて、私の英語は下手になってました(笑)。
また英語の勉強をしなければ、と強く思いました!
- 次にその方とお会いするときのために、ぜひ! ですね!
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「7種読み」、そしてつま先でジグザグに歩く試験期間
学期末試験で全力を出した後すぐにレコーディングスタジオに直行してアニメ「蒼穹のファフナー」のキャラソン「全力LOVE」を熱唱
-
おかしいな、また話がそれてる気がします(笑)。
3年冬学期の試験のことでしたよね?(笑)
- どんなお話でも大丈夫ですよ!(笑)
- 演習科目は試験がないので、この学期に受けた試験は、高齢者法、ロシア・旧ソ連法、それと2年生配当科目だった憲法第1部と政治学でした。
- 試験4科目なんて大変じゃないですか!
-
そうなんですよね。計画的に科目を絞ったといっても、4科目は自分にとっては少なくないので。
でも、もうこれまでの学期みたいに試験から撤退はできないぞと覚悟しました。
- どんな試験勉強をされました?
-
高齢者法は、レポートも出していたので、そのときに調べて頭に入ってたことも多くて、少し気楽に試験勉強ができました。
法学部の科目は、直近10年とか20年とか分の過去問が入手できるものがあるんですけど、高齢者法は近年開講されたものらしくて過去問がなかったんです。
- 現代ならではの科目、という感じですよね。
-
まさにそうですよね。
なので、どんな問題が出るかは想定しきれなかったんですけど、扱った範囲の中で何個かトピックを抽出して、それに対して説明なり見解なり、一定の分量を書けるようにしました。
- トピックというのは、決まった論点みたいなものがあるということですか?
- いえ、そういうわけじゃなくて、自分でなんとなく、このあたりに問題がありそうだとか、このあたりは人によって考えが分かれそうだとか、そう思う点をトピックだと思うことにしたんです。
- なるほど。それをまとめて書けるようにと?
-
それも、実際に書いてたわけじゃないんです。その時間もなかったので。
頭の中で何を書くか大体決めて、本当にそれが文章として書けるかは、口で言ってみて確認しました。
書かれた原稿があれば、その意味をまったく理解してない文章でも読み上げることはできるんですよね。読めない外国語とかでなければ。
別に声優とかでなくても、文字を読める人なら、意味を理解せずにただ声に出して読むことはできるんです。
でも、書かれたものがない場合、つまり、何かを見ながらしゃべるのではない場合は、自分で意味をわかってないことはしゃべれないんです。少なくとも秩序立てては。
なので、あることについて何も見ずにイチから自分でしゃべれるということは、まあ理解してるとしていいのかなと思うんですよね。
- ああ! たしかにそうですね!
- もちろん、丸暗記すれば理解してなくてもしゃべれたりしますけど、でも丸暗記はできる量に限りがありますからね。
-
意味を理解できていないとしゃべれない、というのは、言われてみて本当に納得します。
すごく役者さんならではの視点のような気がします!
他の科目もこういうやり方をされたのですか?
- ロシア・旧ソ連法は、ご担当の先生の本を熟読しました。
- 教科書ということですか?
-
いえ、教科書としての指定ではなかったんですけど、先生ご自身が書かれた本なので読まないわけにはいかないなと思って入手してました。
教科書指定でない以上、学生がその本を読んでいる前提にはされてないので、試験でそこから出題されるというわけでもないんですけどね。
先生のその本と、他にも、ロシアとソ連の法に関連する文献を集めて、読めるだけ読みました。
ロシア史とか大きな範囲になると、本を集めるといっても膨大になってしまいますけど、さしあたりは「法」という括りがあるので、講義で取り上げられた事象なり論点なりに関係すると思われるものを選んで集めました。
- それだけでも分量が相当あるのでは?
-
そうですね。そして、関連文献を全部チェックしようとすると、当たり前ですけどきりがないんですよね。
でも、用意できるものは用意しようとするタイプなので、本も雑誌も論文もできるだけ集めてました。
集めついでに、旧ソ連の裁判傍聴の本みたいな、試験と直接はあまり関係なさそうだけど興味をひかれた本も読みました。
※小森田秋夫著『ソビエト裁判紀行』ナウカ、1992年
- 集めた文献は全部読まれたんですか? 1科目だけでもものすごく時間がかかりそうです。
-
たいてい全部は読めなかったです。単純に集めすぎなんです(笑)。
でも、時間が許す限りは読めるだけ読もうとはしてました。
量が多いので、結局「目が滑る」事態がよく起こって、頭に残らないことが多かったと思うんですけど、同じトピックを扱った別の文献をたくさん読むと、同じ範囲でわりと似たようなことが書かれてるので、似たようなことを繰り返し読むことになりますよね?
そうすると、ひとつ目を読んでほとんど頭に残らなかったとしても、同じ範囲の文献を次、次、って読んでいくと、実質同じことを繰り返し読むことになるので、いちおうある程度は頭に定着するんです。
- 「7回読み」を違う本でやるということですね?
-
ああ、そういうことですよね。
「7回読み」は自分にはあまり合わなかったみたいですけど、範囲を絞って別の文献を複数読むのは合ってたと思います。
「7種読み」ですね(笑)。
※インタビューVol.6参照
ひとつの教材に絞ってそれを完璧にやるっていうのが勉強法の王道だといろいろなところで言われていて、実際それができる人は強いなと思うんですけど、私はたぶん、性分的に落ち着きがないというか、キョロキョロわき見をするタイプなんでしょうね。
受験勉強とかであるあるの、参考書を買いまくって結局どれもまともにやらないで失敗するタイプに、自分は限りなく近いように思います(笑)。
- いえいえ、それで実際に勉強されて成果もあげられているわけですから、佐々木さんにはそのやり方が合っていらっしゃるということなんですよ。
-
たしかに、今のところはそうですね。
他の科目でも基本的にそうしてました。
教科書も参考書も参考文献も、ひととおり集められるだけ集めて、それを部屋に広げて片っ端から読んでいく、みたいな。
- 「机の上に広げて」でなくて「部屋に広げて」とおっしゃるあたり、相当な量だと思われます(笑)。
-
ですね(笑)。
この方法のいいところは、ひとつの文献に歯が立たなくても、いろんな文献を読んでいくと、どれか比較的読みやすかったりわかりやすかったりするものに当たる可能性があることなんです。
まあ、可能性、ですけどね。
ひとつしか読まないと、それが自分の今の能力値とか言語感覚に合わなかったりすると、なす術がないというか。
そこでモチベとか実際の進捗が停滞してしまうと思うんですよね。
だから、わからなければ別の、また別の、みたいに、とにかくいろいろ読もうとしてました。
なんか尻軽な感じですね(笑)。
とはいえ、どうしても難しくて何読んでもダメ、っていうこともたくさんありましたけどね。
- すごい……勉強の極意を伺っている感じがします……。
-
この方法には悪いところもあって、それは、試験期間は部屋が文献だらけになって、つま先でジグザグに歩かないと部屋を横切れないというところです(笑)。
憲法も政治学も同じように、ひたすら関連の文献を集めました。
政治学は、教科書はあったんですけど、教科書で講義の範囲のすべてを網羅していたわけじゃなかったので、結局、講義で扱った中で自分でいくつかトピックを決めて、そこを深掘りしていく感じでいろんな文献から情報を入れて、それについて話せるようにしました。
- 先ほどの、口で言ってみるというやり方ですね?
-
そうです。
憲法は、先生がものすごく独自の、後にも先にも他に似た先生がいらっしゃらないくらい強烈な個性をおもちの方だったんです。
もうご退官された方ですけど、いつまでも印象的です。お話が本当に面白かったです。
ただ、お話は面白いんですけど、声が小さくていらっしゃるので全然聞こえないという(笑)。
-
ええっ?! 講義でですか?
先生、マイクはお使いではないのですか?
-
いや、マイクはあるんです。それでも聞こえないんです!(笑)
絶望的にマイクとお口の距離が遠いとか(笑)、マイクが先生の頭に向いてるとか胸に向いてるとか、肩に向いてるとか(笑)。
そもそも、マイクがオンになってないこともありました(笑)。
学生はみんな「マイク入ってない?」「マイク入ってないの?」「マイク入ってないよね!」みたいに内心思ってて、当惑した顔で周りを見回す人たちもいて、そんな中で先生だけマイクが入ってないことに気づかないまま講義が進んでいくんです(笑)。
いやほんと、笑いごとじゃなかったですよ(泣)。
- ……マイクのせい、ではないですね(泣)。
-
マイクのせいではないです(泣)。
授業中に教壇に行って、マイクの音量を上げて先生にマイクとの距離と角度を教えてさしあげようかと何度も思いました(笑)。
みんな聞こえなくて困っていて、声優がこの教室にいるのにマイクの調整もしないで座ってていいのか、みたいに思いましたけど、さすがにそれできませんよね(笑)。
もうこっちで高性能のマイクと爆音が出せるアンプを用意するべきかも、みんなの幸せのために、とわりと本気で考えたりもしました(笑)。
テレビの撮影とかで使う長いガンマイクを先生の頭上に吊るしたらどうだろうとか、集音マイクみたいなものをこっそり教壇の側面に貼り付けてみようかとか(笑)。
- (笑)。
-
そんな感じでしたから、憲法の授業中は教室がものすごく静かでした。
先生の言葉が聞こえなくなるので、誰も音を立てられないんです(笑)。
みんな、ものすごく耳を澄ませて聞いていて、足音とか咳払いとかくしゃみとかでちょっとでも音を出した人は一斉にキッと睨まれたりします(笑)。
私も誰かを睨んだかもしれません(笑)。
ノートやなんかの紙物をぺらってめくる音もはばかられるので、みんな、そおっとそおっとページをめくるんです(笑)。
駒場キャンパスの900番講堂という大教室だったんですけど、憲法のときはピンひとつ落ちても聞こえるような空間になってました(笑)。
- 学生に集中して聴かせるために、あえて聞こえにくくされていたとか?(笑)
-
いえ、その意図はまったく持っていらっしゃらなかったと思いますけどね(笑)。
でも、たしかに集中して聴きました。
で、試験は、どの文献よりも、その先生が話された内容こそ理解できてないといけなかったんです。
- また違う勉強法が必要になったんですね?
-
そうなんです。
試験対策をどうしたらいいのか本当に途方に暮れてました。
だって、まず、聞こえないというところからですよ!(笑)
こういう難関があったこともあって、2年生のときに憲法の試験を受けずに後回しにしたんですよね。
- ああ、そういうことだったんですね(笑)。
-
でも、もう今回は受けるしかないと思って。
先生が憲法判例の膨大なリストを配られたので、その中で、講義で取り上げられた判例を全部調べて、カテゴリ分けをして、それらを先生がお話された内容や、先生の問題意識に基づいて理解しようとしました。
そして、どのカテゴリについても、そのように分けた理由と、カテゴリの特徴みたいなことについて語れるようにしました。
-
なるほど、先生の問題意識に基づいて!
長年その科目をご研究されてきた方の問題意識なわけですものね。
-
一方こっちはその科目についてまったく素人ですからね。
憲法については、文献を多少は集めて、あとは判例集一冊を辞書的に使いながら、講義内容に集中してひたすら勉強しました。
先生のお話された内容は、一部、というかだいぶ聞こえなかったので(笑)、それを補完するために文献を調べました。
最終的には、すごく大げさな言い方ですけど、自分の頭の中にその憲法の先生がいらして、先生がしゃべっているような感じで、試験の答案を書きました。
- す、すごい!
-
いや、ものすごく大げさに言えばですよ!
先生と同じように理解してたとかでは全然ないですからね!
でも試験中は、講義で先生がおっしゃった通りのことを書けたので、ちょっとハイな気分になりました(笑)。
お話が面白かったって言いましたけど、決して憲法や法律だけのお話じゃなかったんです。
先生のご専門の国法学関連や、昔の東大法学部のお話も面白かったです。
中でも覚えてるのは、あるとき、ハリウッドの赤狩りの時代にリリアン・ヘルマンが非米活動委員会に召喚されたときのことを話されたんですね。
思わぬところで「リリアン・ヘルマン」という名前が出てきて本当に驚きました。
※アメリカ合衆国の劇作家です。
お気に入りのリリアン・ヘルマンの本『未完の女』(原書)、『一緒に食事を』とDVD「ジュリア」
- 憲法の授業で! リリアン・ヘルマンをご存知の学生さんの方が少なそうですよね。
-
私はリリアン・ヘルマンがすごく好きなので嬉しかったです。
ヘルマン原作の映画「ジュリア」が好きですね!
本だと『未完の女』が。
それに、『一緒に食事を』っていうレシピ集みたいな本も出てるんですけど、これもいいですよ!
※リリアン・ヘルマン著、稲葉明雄、本間千枝子訳『未完の女―リリアン・ヘルマン自伝』平凡社、1993年
※リリアン・ヘルマン、ピーター・フィーブルマン著、小池美佐子訳『一緒に食事を―回想とレシピと』影書房、1997年
-
レシピ集まで読まれるんですか!
映画にも本にも、本当にお詳しいですよね!
佐々木さんの映画と小説のお話は、それだけでも本当にそのうちどこかでお話していただきたいです!
で、その試験を受けられた4科目ですけど、成果としてはいかがでした?
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それが、全部優をいただいたんです。
驚いたことに憲法は優上でした。
- す、すごいです!!
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あ、この勉強のやり方でいいのかも、と思って多少安心しました。
このやり方で来学期からも勉強していこうと。
もう4年生になるというところで、やっと、なんとなくですがやっと、法学部の勉強との向き合い方が見えてきた気がしました。
今思うと、時間の許す限りですけど、いちおうどの科目も、その時としてはやり込んだと思います。
文献を集めまくって読みまくるというのは、やたら時間のかかるやり方なので、いわゆるコスパがいい方法とは対極にあるんですけどね。
自分はもともと、勉強についてはコスパを求めないので、これでいいと思いました。
このやり方が楽しいと思えましたしね。
- そうですよね。社会人の方がお仕事に関係なく大学に行かれているのですから、そこで勉強にコスパを求めるのはおかしいですものね。
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でも、次から次に試験を受けてきたので、単位を取った科目は試験が終わるとつい遠ざかってしまって内容も忘れかけてるのが悲しいところですね(笑)。
また復習しなければ!
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それまでは法学の勉強に悩まれたりもしていらっしゃいましたけど、ここでこうやって結果を出されて。
やっぱりどんなことにもとことん手を抜かずに向き合われる方なんですね。
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いや、これは決して私が真面目な学生だったというのでなくて、いやけっこう真面目ではありましたけど(笑)、正直に言うと、学部の試験に対してどこまで勉強すればいいのか見当がつかなかったんです。
だから、手を抜かなかったというより、そもそも手を抜ける判断ができるような状態になくて、それでやれるだけをやっていたら結果的にかなり深掘りになったという。
- それは勉強の理想の形のような気がします。すごく。
- もちろん、全範囲にまで手は回りませんでしたし、手元に集めておいて結局読めなかった文献もたくさんありましたし、深掘りといっても自分の感覚での深掘りなので、本当にその部分を深く理解していたかというと、そんなことはなかったのかもしれないんですけどね。
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3年生冬学期の高成績、本当におめでとうございます!
それも、佐々木さんらしい取り組み方をされてのご成果、すばらしいです!
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ありがとうございます!
「選択と集中」がうまく回りそうかなと思えるようになってきた、それが3年生の終わりでした。
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さあ、次は4年生ですね! この先が楽しみです!
どんな科目を履修されたのか、どんなお勉強をされたのか、まだまだお聞かせください!
次回は、4年生夏学期! 引き続き快進撃なるか?! 6月5日(金)頃更新予定。